教室に入ると、クラスメイトの賑やかな声が耳を抜ける。

そんな中で私はひとり、誰に挨拶をするでもなく自分の席についた。



「おはよう、宇月さん」



隣の席から話しかけてきた、追野くんの柔らかい声に顔をあげた。



「あっ、おはよう追野くんっ」



そうだった、隣の席の追野くんの存在をすっかり忘れていた。



誰に対しても優しい追野くんは、こうしてたびたび私に話しかけてくれて。

人見知りをしてしまう私が、自分から話しかけられる数少ない人のうちのひとりだ。



「今日は1時間目から体育だね」って微笑みかけてくれる追野くん。

ちょうどひとりで寂しいなって思っていたところだったから、そんな私に声をかけてくれた追野くんが天使に見えた。



追野くんは、ほんの少しの棘もない優しい性格だから。

ひとりぼっちで机に伏せていた私を、放っておけなかったんだろうなぁ。



くぅぅ……優しいっ。



「たしか外でサッカーだったよね?もう更衣室で体操着に着替えて、グラウンドに出ればいいのかなぁ?」

「そうだね、そろそろ外に行ってもいいころだよね」



じゃあ外の更衣室まで一緒に行こうよ、と追野くんに誘われた私は笑顔で席を立った。