「ねぇ、確か、傘忘れたんじゃなかったっけ?」

「う、うん、あ、あったこれだ」



資料探しに夢中な彼は適当に返事をし、こちらを見ない。目当てのものを見つけて無くさないように鞄に入れてようやくこちらに向いた視線。



「あ、」



バツが悪そうに。しまった、という感情のこもった「あ、」が誰もいないこの部屋に響く。


私の目の前にあるのはネイビーの色に細いシルバーのラインが入った見慣れた傘。


電車に乗る前の違和感は私の勘違いなんかではなかったことがいまここで、証明された。


おかしいと思った。家を出るときに私の傘しか傘立てに刺さっていなかったから。急いでいたし、スマホを操作していたから見間違いかとも思った。


第一、傘を忘れた人を迎えに行くのに自分の傘しか持っていない私もその時点でなぜ気づけなかったのかと。あれ、結局また私が悪者……?なんて、理不尽極まりない。



「あ、ばれた」

「え、」

「まあ、いっか」

「……えーと、」


「うん、持ってるよ、傘」



あ、この人、開き直りました。俺悪くないし感を前面に出して。開き直った彼はあたかも当然のように、にっこりと口角を上げて微笑む。


えーと、私がここへ来た理由は……。