「ちょっと悠ちゃん!どうしたの?」
「っ、どうしたもこうしたも。静音、ああいうこと遊ぶのはやめたほうがいいよ」
「え?ちょっと悠ちゃんおかしいよ」
この間は、突然、柊くんはやめた方がいいとか言い出して、そのあとは鈴香ちゃん?
なんで私が仲良くなる人のことをそんな風にいうの?
「おかしいのは静音だよ。なんでそんな鈍感なの。っていうかあの男まじありえない」
「わかんないよ。柊くんも鈴香ちゃんもいい子なのに。こんな私と仲良くしてくれて…」
「まだ柊ってやつとつるんでるの?」
「っ、だって…」
おかしい。
いつもの優しい悠ちゃんはどこにもいない。
「付き合ってるよ、あの2人」
っ?!
え?
何を言ってるの悠ちゃん。
わからない。
全然意味がわからないよ。
「何を勘違いしてるのかわからないけど…」
「勘違いじゃない」
「っ、嘘だよ!」
だっておかしい。
なんで悠ちゃんはそんな嘘をつくんだろう。
「抱き合ってるのを見た」
そんなもの嘘だ。
「全然面白くないよ、そんな冗談」
「冗談じゃない。逆に、静音は聞いたことあるの?2人に。ちゃんと確認した?」
確認も何も、付き合ってたらそもそもちゃんと報告するだろうし、鈴香ちゃんの口からも柊くんの口からも『好きだ』なんて聞いたこと…。
「静音が初めて好きな人ができて、俺だって素直に応援しようって思ったさ。だけど…そんなやつだと知った以上、無理だ」
「……っ、」
喉の奥から何か出てきそうになって、目の奥が熱くなる。
意味がわからないけれど、
悠ちゃんがこんな嘘を私にし続けるとは思えない。
でも…でもおかしいじゃない。
なんで付き合ってるのに、柊くんは、私にあんなことをしたの?
自分の中で、今まで柊くんが私にしたことは、きっとみんなにしてることだって言い聞かせてきたけれど。
いざ、やっぱり自分だけじゃなかったと思うと、どうしてこんなに苦しんだろう。
あの柊くんが、私のことを好きかもって期待していたから?
「っ、でも、2人はなにも言わなかったよ」
涙を流して、苦しくなりながら訴える。
「友達だから話す、なんて。限らないよ」
悠ちゃんは小さくそう呟く。
「静音のためにも、あの子たちといるのはやめた方がいい」
悠ちゃんはそう言って、私のことを抱き寄せた。
あれから1週間。
ずっとモヤモヤしている。
自分が柊くんとどうにかなるなんてありえないって思っていながら、もし柊くんにそういう子がいたらって考えると嫌になる自分がいるもんな…。
恋をするとわがままになるものだ。
しかも、相手は鈴香ちゃんだなんて。
宿題をしようと勉強机にプリントや教科書を開くけど、一問も解けない。
シャーペンを持つだけで、教室や柊くんの部屋で勉強したこととを思い出して、大きなため息をつくばかり。
4人のグループメッセージをなんとなく開いて、鈴香ちゃんと柊くんのメッセージだけを読み返す。
「はぁ……」
こんなこと…誰に相談すれば…。
私の気持ちを知ってて、柊くんと鈴香ちゃんをよく知る人物。
あ。
1人…。
いる。
*
「珍しいよね、緒方が俺を呼び出すなんて」
学校から一番近いファストフード店。
目の前に座る男の子に、少し緊張しながら頷く。
この人は、私の気持ちにとっくに気づいていると思う。
男同士だし、土田くんにはそういう話ししてるかもしれない。
「柊のこと?」
「うっ、」
飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになって堪えた。
「なんでっ、」
「なんでって。わかりやすすぎ」
土田くんは笑ってそういうとフライドポテトをパクっと口に入れた。
「ひ、柊くんって…」
「うん」
「す、好きな女の子とか…いるのかな〜?なんて…」
こんなことを自分から聞くことになるなんて。相手は柊くんじゃないのにすごく恥ずかしい。
「なんで、それ、柊本人に聞かないの?」
「……」
聞けるわけないじゃないですか。
「す、好きなので…聞けないです」
多分、今の私の顔は真っ赤だ。
こんなこと自分の口からいうなんて。
こういうことを自分で言っちゃうくらい、余裕なくなってるんだと思う。
「…うわ、素直に認めるんだ。余裕ないんだね。でも残念ながら、柊は好きな人いるよ?」
っ?!
「そ、それって…やっぱり鈴香ちゃんなのかな?その、あの2人って付き合ってるのかな?」
土田くんの口から聞いちゃったら確実に本当のことになっちゃう。
「プッ、ハハハハハハハッ」
「え、ちょ、土田くん?!」
土田くんがあまりにも大きな声で笑うもんだから、私はキョロキョロと辺りを見回す。
みんな見てるじゃないの!
「ごめんごめん。でも、あの2人はそういうのではないと思うよ。だとしたら俺が許さないし」
「へ?」
最後の部分がよく聞こえなくて聞き返す。
「ううん。とにかく、柊と高城は付き合ってない。断言できる」
土田くん、すごい自信を持っていうけど…。
「え、でも、でもね、私の幼なじみが、見たって言ってたの。鈴香ちゃんと柊くんが…その…抱き合って…」
「ん?それマジ?」
「マジです」
その瞬間、土田くんの顔が変わって、んーと考え始めた。
やっぱりあの2人、私と土田くんにまで内緒で?
「……うん。ありえない」
「え、」
「どんなに考えてもありえない。おかしい。それ、緒方の幼なじみの見間違いだと思うよ」
土田くんはそう言って、コーラを一口飲む。
こんなにはっきり言われると、あれは悠ちゃんの見間違いだったのかなと思う。
そうだよね。
悠ちゃん、一度柊くんを見ただけだし、鈴香ちゃんのことだってこの前ちゃんと顔を見てるだけだし。
うんうん。
「で、緒方これからどうすんの?」
「へ?」
これから?
土田くんの言葉に首をかしげる。
「いつまでもその気持ち、しまっとくつもり?」
「っ、だって…私に柊くんに告白する資格なんて…」
「告白する資格ないやつが、いっちょまえにヤキモチなんて、それこそそんな資格ねーんじゃねーの?」
っ?!
心臓に鋭い刃物が刺さったような衝撃。
グサって聞こえた気がしたくらい、土田くんの言葉が刺さった。
「…そう…だよね」
「まぁ、俺も人のこと言えないけどな」
土田くんはそう言いながら、眉毛を下げて悲しそうに笑った。
「あ、柊に俺と会ったこと内緒な」
「ん、どうして…?」
「あいつ、怒ると思うし」
ん?
優しい柊くんが怒る?
「とにかく、お互い頑張ろうな」
土田くんはそう言って、またポテトフライを頬張った。
土田くんの意味深な言葉に、時々頭にはてなが浮かぶけれど。
彼に相談してよかった。
たくさんの不安が綺麗サッパリなくなったわけじゃないけれど。
土田くんがいうように、そもそも告白もしてない私が、2人の仲を疑って勝手にヤキモチを焼くなんて、それこそおかしな話しなんだ。
「ありがとう、土田くん」
そうお礼を言ってから、私もポテトフライを一口食べた。