5回の表。0対3。ノーアウト、2.3塁。一打逆転の場面。これまで海人に抑え込まれていたが、この日始めてのチャンスが来た。ここで回って来たのは高校時代、海人とバッテリーを組んでいた潤だった。潤は1打席目はレフト方向にヒットを放っていた。
カキーン

高々と上がった打球はレフトスタンド中段へ入った。これで逆転し、4対3。ものすごく嬉しかった。

しかし、この裏、海人に2ランを打たれ、逆転をされる。案の定、この回で櫻先輩は交代となり、6回からは4年生の福井先輩が上がった。それからは打たれず、また、味方人も打てない状態が続き、最終回の表。2アウト満塁。ここで回って来たのは1番の大山先輩だった。

「大山先輩、頼みます」

「大山、お前にかかってるぞ」

「大山先輩、リラックスしてください」

私達の応援は届き、

「ありがとうな。言ってくる」

大山先輩は打席に向かう。

「お願い。大山先輩」

カキーン

「2つ!」

「金井、走れ!」

大山先輩の2ベースで逆転に成功した。そして、最後、守護神の谷澤さんが締めてゲームセット。

新人とはいえ、プロ相手に勝てた。

「おっしゃぁぁぁぁ」

「プロ相手に勝てたぞー」

「金井のおかげだな。俺らだけだったらあんな化けもんに捻り潰されてたわけだから…」

潤は試合前に海人の特徴や、弱点などをチームメイトに細かく説明をしていた。

「当たり前です。海人は当たっても当たっても砕けない存在ですから」

「当たって砕けろじゃないんだから」

みんなで笑った。とてもとても楽しい時間だった。




「ねえ、潤」

「どした?」

「今日の海人、明らかに高校時代よりレベル上がってない?」

「ああ。高校時代は9回まで投げることなんてなかったのに、今日は平気で9回まで投げてる。多分、向こうのコーチに鍛えられまくってるんだろうな」

「プロはコーチも監督も超一流だからね。大型ルーキーでも容赦なしか」

「ああ。やっぱり海人は俺らには手の届かない友人でありライバルだよ。だから、俺も負けてられねえ」

「ねえ、潤はさ、何を目指してるの?プロ?」

「ああ。けど、俺はプロに入るだけが目標とは思っていない。プロに入って、新人王獲って、入団したチームの役に立つような選手になって、いつか、あいつと…海人と、もう一度バッテリーを組みたい」

空を見上げながらそう言う潤がキラキラして見えた。

「奏は?何になりたいの?」

「私?」

「うん。今は慶應野球部のマネージャーをしてくれているけど、卒業すればマネージャーは出来なくなる。卒業後の進路を考えないとどうにもならないよ?」

「私は…まだ分からない。奈々香は栄養士を目指して東大の栄養学部に進学したけど、私は何をしようとかも思い浮かばないわ。はぁ、進路かー。華先輩にちょっと聞いてみるか」

「ま、それも一つの手だね」

「じゃあ、私、女子寮戻るから。また明日」

「おう」

そしてこの日は終わった。