土用の丑の日がやってきた。
天候にも恵まれ、石田村の子供達が大勢、淺川に集まっていた。
「おぉ、歳三もよくこんなに人を集めたもんだ」
佐藤彦五郎は、今回は子供だけで牛革草を採ると噂を聞きつけ、歳三の様子を見る為に日野宿から石田村へと来ていた。
喜六も為次郎も人寄せの上手さに驚きを隠せずにはいられなかった。
まだ九歳と年端もいかない子供だ。
年上の者だって勿論いる。
「いいかお前達!
終わらせる目安は夕七ツ(16時)、遅くても七ツ半(17時)までには牛革草の収穫を終わらせる!
それ以上かかった者や、取り残しなどの不正を行った者は厳正に処する!」
毎年恒例の土用丑の日の牛革草の収穫を、祭気分で子供が集まったんだろう、と思っていた彦五郎は、歳三の雰囲気に飲み込まれていた。
「さてさて、どうなるかな。
黒砂糖は俺か喜六…か」
「七ツ半までって俺達大人が必死こいて漸く摘み終わる時間だぜ。
子供が大人よりも少しだけ多いといったって、到底七ツ半にゃ無理だ」
喜六は諦め顔で、橋本家に行く準備を始めたのだが、準備を終えて屋敷から出て来ても歳三の収穫作業は始まっていなかった。