「まったく為次郎兄さんは歳三をすぐに甘やかすんだから」


喜六はやれやれとため息を吐き、当惑の眉をひそめた。

「でもなトシ。
武力のみが強いだけでは、武士(もののふ)ではないぞ。
人を動かす知恵というものも身につけねばならんのだ」

為次郎はそう言い、咳払いをした。


「土用の丑の日は、明後日だ。
明日までに石田村の子供達を集めるのだ」


「集めてどうするんだい?」


「お前が全軍の指揮をとり、牛革草を摘ませるんだ。
喜六、お前たち大人は今回の刈り取りには出るんじゃないぞ」


えぇ!っと歳三と喜六は耳のそばで大砲を撃たれたかのように驚いた。
牛革草を採るのに大人だけでも半日はかかる重労働である。


「為次郎兄さん、それはあまりにも無茶だ」


「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、だ。
これは、いつか戦国武将のように天下に名を馳せる為の武者修行の一環だァ、トシ」


歳三はわなわなと震えていた。
これが武者震いというやつであろうか。


「分かったよ!
為兄ィ、喜六兄ィ、俺やってやるぜ!」

歳三は胸が高鳴り、一筋の希望が目に輝きを持たした。


 歳三は服を着ると、近所の子供達を集めるためにさっそく家を飛び出した。