その日の夜、歳三は自室で考えていた。
自分は普通なのか、はたまた衆道なのか。
女の味はまだ知らない。
気が付けば足が勝手に進んでいた。
「佐江殿」
東一郎の娘である佐江は裁縫をしている最中であった。
薄暗い行灯(あんどん)に照らされる佐江の顔はやけに大人びていて身も心も狂うほどの女の色香があった。
「トシ様、いかがなさいましたか?」
「夜分遅くに申し訳ないが、夜這いに来た」
歳三はそう言うと、みるみる佐江の顔は全身がまるでゆでダコのように紅潮した。
すがりつくように執拗な歳三の唇の感触に、佐江は酔いしれた。
━━これが、女の味だ。
そう思えば、初めての感覚が生まれてきた。
支配欲に似たような、勝ち誇ったような、なんともいえない感覚である。
佐江と一つに重なり、一心不乱に愛を確かめあった。
佐江のかく汗がまた美しく見える。
その煌びやかな身体は、それまでの不安や焦躁はどこにか行ってしまって、悪夢から幸福な世界へと目ざめたように幸福を実感するには十分であった。
再び二人は熱い接吻を交わしあい、秘密の逢瀬は終わった。