眠い目をこすりながら、いつも通り仕事を行っていると、東一郎が側にやって来た。
「おはよう、歳三くん」
いつもと変わらない表情で挨拶をしてくる東一郎に、大人の余裕というものを感じた。
しかし、いつもなら番頭はすぐに帳場へと行くのだが、今日は行くそぶりもなく歳三の耳元で囁いた。
「歳三くん、昨日は実に有意義な夜だった。
今夜も待っているから、亥ノ刻(22時)に待っているよ」
口に出してはならない言葉を臆面もなく口にする東一郎に、俯き加減に視線を逸らした。
「ほら、そんな表情。
誘ってるとしか思えんな」
とニヤリと下品な笑みを見せるかと思うと、太腿(ふともも)を触る手つきが官能的な誘惑のように感じ、尚且つ昨晩の事を思い出して歳三の頬は火照り、鼓動は早く脈を打つ。
その晩、東一郎からの誘いを断りきれずに、歳三は抱かれたが、慢性的な消化不良のようなやりきれない感情が生まれた。
東一郎は念此(ねんごろ)は戦国時代から武士道として当たり前にあったと言うが、これは果たして衆道(しゅどう)なのだろうか。
(俺は果たして男色なのか?)
そう思うと収集のつかない自己嫌悪に駆られ、白々とした虚無感が黒い怒りに似た不思議な感覚に襲われた。
(俺は男だ!)