「もしよければ歳三くんも一杯どうかね?」

東一郎はそう言うと、猪口を飲む素振りを見せた。

「いえ、私は明日の仕事に差し支えるので」

歳三はこの年まで酒を呑んだことがない。
いいから付き合え、と東一郎は猪口を渡して歳三に酌をした。


「…では、頂きます」


 蛇の目の猪口(ちょこ)は透き通っていた。
光沢もあり良質な酒である。
東一郎の真似をするように、くいっと呑めば、器官を通し熱い飲は、舌を震わせて喉に滑り込んで行く。
まるで胃の中に火がついたような熱さが走った。

(こんなモンのどこが美味いんだ)

歳三はむせながら、お猪口を置いた。

「ははっ、歳三くんは下戸(げこ)かい。
可愛いのう」

可愛いという言葉にムッとし、負けん気の強い歳三は手酌で酒を一杯、そして二杯と間髪を入れずに呑んだ。
顔は既に酩酊の赤さを帯びている。

「無理をするな歳三くん。
呑めない事は、恥じる事ではない」

「そうですか。それでは、お先に失礼させていただきます」

 このままでは、きっと明日に差し支えるだろう、歳三は自室へ戻ろうと立ち上がろうとしたが飄々うらうらとし、足元が定まらずに倒れこんだ。

 色の白い顔は頬が桃色に染まり、酔って虚ろな目は番頭も唆られるものがあった。