ある晩の事である。
歳三も奉公を勤め上げ半年ほど経ち、あいも変わらず亀店の者達は歳三の事を可愛がってくれていた。
とくに東一郎に関しては、娘はいるが息子がいないからか、歳三を我が子のように可愛がり、歳三もまたそんな東一郎を慕っていた。
「歳三くん、酒を頼むよ」
そう頼まれれば、歳三は喜んで応えた。
主人の為に、そして東一郎の為にも歳三はせっせと働き煙草盆や掃き掃除など奉公人としての業務を従事していた。
鶴店と違い、真心から行う仕事というのは気持ちの良い事だった。
初めて人に仕えるのも悪くはない、そう思えたのも亀店の番頭のおかげであろう。
歳三は酒を酌をすると、東一郎はグイッと飲み干した。
「ありがとう。旨い。
やはり、歳三くんが淹れてくれた酒は絶品だ」
東一郎の顔はくしゃっと微笑み褒めてくれるのだ。
たとえ社交辞令だろうと褒め言葉だろうと、素直に喜び再々、酌をした。