壬生浪士組は近藤一派と芹沢一派で割れていることを会津藩も知っている。
「……先日の勇姿を見て、こんな事は言いたくはないが、察してくれ」
つまり内々で始末せよ、と口には出さなかったが、その命を受けた。
「恐れながら申し上げます。
芹沢筆頭局長は今や市中巡邏に精を出し、隊務に励んでおります」
新見が居なくなって芹沢は変わった。
尽忠報国の志を持ち、激務に励み、今の〝壬生浪士組〟にはなくてはならない存在となっている。
「大和屋での一件も、あれは元を正せば生糸を買い取り、市民の暮らしを困らせていた大和屋庄兵衛に対する天誅でござります」
実際に大和屋焼き討ちは、焼き討ちとはいえ、事前に周辺の住民には避難や注意の喚起をし、類焼を防ぐために周囲の建物を取り壊したり、土蔵の内部だけに火が付くようにするなど、配慮をみせていた。
また、多くの西陣の職人らが、鎮火した後の打ち壊しに参加している。
これは、強制ではなく生糸の買い占めや暴利により私腹を肥やしていた大和屋に対して、反感を買う者が多かった現れである。
「近藤殿、会津藩に泥を塗るような真似を今後されてしまったら…」
壬生浪士組の今後に関わってくる。
「承知しました。
会津の方々に決してご迷惑をおかけせぬように、局長に責任を取ってもらいます」
歳三は広沢に向かいそう言った。
三人は暗い面立ちを浮かべながら屯所へ帰り着いたのは暮れ六つ(18時)となっていた。
「どうすんべぇ」
勇は浮かない表情を浮かべていた。
「簡単な話さ」
「…斬るのか!?」
歳三は首を横に振った。
芹沢鴨、平山五郎、平間重助、野口健司……新見錦。
目を瞑り一人一人の顔を思い浮かべて、歳三は筆をとって名前を一人ずつ書いていった。
「新見を副長に降格させる」
今や隊にも姿を見せない新見錦だ。
名ばかりの局長はいらないが、平隊士にしてしまったら芹沢の気が収まらないだろう。
降格という形でケジメをつけようと、新見を副長にする事と決めた。
さっそく島田魁を呼び出し、新見の居場所を探ってもらう事に決めた。