八月十八日の政変の余韻が残る中、歳三と勇、そして山南は黒谷金戒光明寺へと呼ばれた。

「芹沢鴨ら水戸の者には悟られずに来い」
と達しがあったのである。
黒紋付の羽織袴に着替え、三人は赴いた。


「面をあげよ」

 凛とした声が聞こえた。
目の前には会津藩主・松平容保が朱色の陣羽織を着て上まぶたを安堵したようにたるませていた。

「先日は大儀であった」

仙洞御所から御花畑にかけて布陣を敷いた壬生浪士組に労いの言葉を添えたが、歳三は肚の中で悶々としていた。

何も出来やしなかった。
黄色い襷を頂戴したが、長州の逆賊達と相対する事を喧嘩師でもある歳三は期待していたのだ。

初陣を勝利におさめたが、それは壬生浪士組の働きではなかったのである。


「広沢達から聞いたぞ。
そち達には不快な思いをさせてしまった」

容保はそう言うと、会津三葵の紋が入った筆でスラスラと筆をとった。

「名前も壬生浪士組だの誠忠浪士組だの意見の食い違いがあると聞いた」

容保の言葉に勇は恥ずかしそうに仰る通りだと頭を下げて肯定する。

「今後は正式にそち達に市中巡邏の役を行なってもらいたい。
そこで名前もやはり一つにまとめた方が良いと余が考えたのだ」

容保は書き終わった半紙を秋月悌次郎に渡し、その紙を勇は頂戴し、「見てみよ」と容保は言った。