その時、騒ぎを聞きつけた公用方の西郷十郎兵衛門が駆けつけた。

「これはこれは、とんだご無礼をし申した。
壬生浪士組の皆さんの到着が予想以上に早かった故、連絡が行き届かず、無礼を許されよ」

緊張の糸が緩む。

「それにしても、素早いご対応痛み入る。
さすがは、我等が会津藩に取り立てられる剣客集団でござるな。 いやァ、頼もしい」

ニコニコと笑う同じく公用方の広沢富次郎に、芹沢はようやく鉄扇を畳んだ。

ほっとした空気が流れる。

 その中で歳三は、きつくきつく拳を握りしめていた。
悔しいが、芹沢の勇姿というのは賞賛に値する。
心の中が二つの感情に掻き回されている気分であった。

この時、浪士組に会津藩の合印である黄色の襷(たすき)が渡された。

「この襷は、会津の兵という印である。
諸君らはもはや、ただの浪士ではない。
幕府を最もよく支える会津の一端を担う兵士、その証である」

歳三や勇はもちろん、これには芹沢もほかの浪士達も大いに喜んだ。

「それで、長州の動きは?」

歳三は広沢に戦況を確認すると、広沢の表情は暗くなった。

「すぐにも暴発しそうだ」

御所を守る薩摩、会津。
今にも御所に発砲しそうな長州。

敵味方固唾をのんで、にらみ合うことまる一日。

まさに一触即発の空気があった。

勇んで守備に就いた。
討死も覚悟の上であったが、長州藩との武力衝突はなく、夜には御所南門の建礼門付近の警備を命じられ、そのまま一夜を明かす。


 夕七つ(17時)頃、わらわらと長州藩兵の引き上げがはじまり、二千四百名余りの兵士達が四陣に分かれて撤収していく。

ついに、戦には至らなかった。

ほっと胸をなでおろす警護の武士たち。
そして長州藩兵は東山の妙本院に移動し軍議を開いた。

「長州に戻りましょう。
今は是非もございません」