壬生浪士組一行が蛤御門に到着すると、門のところではすでに長州藩兵に相対し、会津と薩摩の藩兵がにらみ合い、一瞬即発の空気がただよっていた。

「われわれも、早く仙洞御所なる持ち場につこう」

門内に入ろうとする壬生浪士組一向。

そこへ、

「何者だ。名乗れ」

と警固の会津藩兵が槍を芹沢の鼻先まで突き立てた。

「会津藩御預り、精忠浪士組である。
藩命により、仙洞御所へまかり通る」

「知らん!」

話が違う。
勇は「壬生浪士組である!」と声をかけても、会津藩兵は「知らん」の一点張り。

「え?…話が通っているんじゃねぇのかよ」


左之助の戸惑った声は一同を不安にさせた。


「会津藩兵の誰もが、私達を知っているという訳ではありませんからね」

そう言って山南は唇を噛みしめた。
まだこれといった仕事はしていないのが事実である。

「我々は、壬生浪士組でございます。
出動要請により参ったのですが、どなたか話のできる方を…」

勇がきちんと話をしようとしても、殺気だっている彼らの耳には入らない。

「会津藩公用方の野村殿にお取次を!」

歳三がそう言葉を添えたが、芹沢は仰いでいた大鉄扇をピタリと止めた。

「そんな事じゃ、埒があかん!」

芹沢が、ニヤリと笑い勇を見た。

「近藤局長、ここは筆頭局長であるワシに任せんさい」

と言うと同時に、堂々と向けられた槍を相手に鉄扇を翳しながら歩み寄る。

一呼吸をおいて、野太く凄まじい大音声が轟いた。

「無礼者!」

ビクリっと藩兵たちが硬直する。

「我らは京都守護職会津藩御預り、壬生浪士組である」

「し、知らぬ!」

芹沢の顔の五寸前に、槍の穂先が突き出されている。

「ふん」

煩そうに鉄扇で仰ぎたてる。
会津藩兵たちが、おおっとざわめいた。

「松平肥後守容保様の命により仙洞御所(せんとうごしょ)を御護りに参った。
速やかに通されよ」

威風堂々たる姿であった。
会津藩兵の鉾先は、頗る芹沢の威勢に震え始めた。

「そんな屁っ放り腰で長州の連中を突けるのか!」

睥睨(へいげい)するかのように、会津藩兵達を芹沢は鋭い眼光で見廻す。
強者揃いの会津兵も、それ以上は何も言えずに、ガタガタと震えていた。
芹沢の勢いに会津兵は勿論、浪士組の面々でさえ、圧倒されていた。

「もう一度言おう。
壬生浪士組、筆頭局長・芹沢鴨。
藩命によりこの先、まかり通る」