歳三は上野から内藤新宿に出ると、甲州街道に沿って歩いていった。
下高井戸をすぎて上高井戸に差し掛かる頃には、日はどっぷりと沈み、夜が死人のように静まり返っていた。
街道筋にはよく追い剝ぎが出るので、夜になると人通りはばったりと途絶えるのだ。
夜の静けさの中、腹の虫が無常にも鳴り響いた。
歳三は女将が朝餉で持ってきてくれた握り飯を思い出した。
「女将さん、いただきます」
竹皮の紐を解き、握り飯を頬張った。
女将の優しさが歳三の胸を締め付けた。
すぐに平らげると、棒のようにつっぱっていた足も幾分か楽になっていた。
先程まで感じていた心細さも少しは消えて、歳三は再び歩き始めた。
布田から府中を過ぎてしばらく行くと、闇に仄かに光る水面が目の前に現れた。
多摩川である。