「煙草盆掃除して、ついでに頭を冷やしてこい。
お前さんは商人より煤にまみれて汚れているほうがお似合いだ!田舎モンが!」

番頭はそう怒鳴ると、歳三は煙草盆を蹴飛ばした。

「俺は効率を考えながら掃除してんだ!
少しは待つ事しやがれ!!」


歳三は番頭を殴ってやりたい衝動に駆られたが、歯を食いしばって我慢し部屋から出て行った。


 朝餉は普段、皆で膳を囲み食すのだが、朝の騒ぎを聞いていた主人の妻は気を遣い歳三の自室へと朝餉を運んでくれた。

「今朝の事、気にしないほうがいいわよ」

「お心遣いありがとうございます。
一人にさせてください」

歳三はぶっきらぼうにそう言うと、女将は理解したようにそっと襖を閉めた。
朝餉には似つかずに、握り飯が二つ、その下には竹皮が敷かれていた。


 女将の計らいをありがたく受け取り、その日のうちに歳三は荷物を纏めて、店が忙しい時間を見計らって外に出た。

(こんな店辞めてやる!)

そう心に決めていた。
丁稚奉公の為、給金が出る事もない。
石田村までは九里(約36km)の道のりだ。