八ツ半(15時)となっていた。
その頃喜六は、小野路村の橋本家から帰っている最中だ。

「道助さんは話が長え長え。
沢庵も貰ったし、黒砂糖も買ったし。
歳三の奴ァ今頃どこまでやり終えたんだろうなァ」


八ツ半だ、あと半刻で申ノ刻。つまり夕七ツだ。
小野路村から石田村までは、徒歩で一刻(2時間)はかかる。

喜六は帰路を急いだ。


「どうせ終わってやしないさ。
俺が帰る頃にゃ、彦五郎さん達が指揮をとって、大人で牛革草を摘んでるに違いない。
為次郎兄さんも余計な事してくれたものだ」


 喜六はぶつぶつと愚痴を吐き捨てながら、自然と苛立ちからか早歩きとなっていく。
浅川に辿り着く頃には夕七ツとなっていた。

 山紫水明、夕映えの淺川が目に映る。
歳三はただ一人でポツンと淺川に立っていた。


 手には数本の牛革草が握られていた。
地面をジッと見つめながら、斜陽が水面に金色の影をキラキラ落とし、哀愁が漂っているようにも見えた。


(落ち込んでやがるな)


 喜六は声をかけようとした時、歳三は喜六の気配に気付き笑顔を見せた。