いつまでも話していて牛革草摘みを始めない歳三を見て、痺れを切らした喜六は為次郎に声をかけた。
やはり、歳三に指揮をとらせるのはまだ早かっただろう。そういう思いが喜六の腹のなかには渦を巻いていた。


「何してんだい?」

「軍議だよ」


喜六は怪訝(けげん)そうな面立ちを浮かべた。
為次郎は土手に座り、にこやかに笑った。


「あいつァ、俺達が思っている以上にすごい男になるやもしれんな」


彦五郎も感心したように歳三達の様子を見つめている。

「まったく、彦五郎さんまで」

喜六はどこか違う世界に紛れてしまったような感覚に陥り、橋本家へと向かっていった。


「それではこれより牛革草の収穫を始める!
よし、かかれ!」


 歳三の一言によって、子供達はまるで蜘蛛の子を散らしたように淺川の河原へと散らばっていった。