第1話 死神と出会った日









「高校入る前にスパイク新しく買おうと思ってるんだよ。」


「お!ハルイチも同じこと考えてたのか。
俺も!」


「マジか!今度一緒に見に行こうぜ!」


「早く入試終わらないかな!
2人だけじゃさすがに練習も限られてくるよ。」


「そうだな~。
後輩達の邪魔はできないし。
早くみんなで集まって練習したいよな。」






友達のハルイチと、俺 河原ハヤタはサッカーの自主練を近所の公園で行っていた。



「そういえばハヤタ、お前明日誕生日だろ。
ほれ、俺のおごり。」



後片付けをしていたら、いつの間にか自販機に行っていたハルイチがスポーツドリンクを投げてきた。



「おおよく覚えてたな。
サンキュー。」


「ちゃんと俺の誕生日の時は返してくれよな。」


「ハルイチの誕生日いつだっけ?」


「6月5日。」


「また6月に入ったら教えてくれ。
じゃあまた明日!」



「またな!」





俺達は高校入試を翌週に控えていた。


その先の大学まで見据えて難関の高校を志望、

ちょっと背伸びした学校を選んで猛勉強、

とりあえず自分の成績に見合った学校を選ぶ。


同級生のみんなはそれぞれ行きたい学校を目指して頑張っていたけど、俺とハルイチはサッカーができれば高校はどこでも良かった。


だから家から遠すぎず、今の学力で十分合格できそうな学校を選んだ。


受験勉強を疎かにしてはいけないけど、それで体が鈍るのはもっと避けないといけない。






<今から帰る>


自転車をこぎながらスマホを片手に母ちゃんにメールを送る。

すっかり暗くなったな・・・。

帰り道を急いだ。







「久しぶりに試合してーな。」


思わず本音が口から漏れたその時だった。




『止まれ』


「え?」


誰かの声が聞こえた。

なんだろう。
声が聞こえたというより頭の中で声がした・・?



反射的に自転車のブレーキを握り、その場に止まる。



誰だろう・・。


周りを見渡すが誰もいない。

街灯が少し薄暗い、他に何も無い道だから近くに誰かいたらすぐ分かるのに。



「気のせいか。」



後ろに振り返っていた視線を前に戻した。




『河原ハヤタだな。』


「うわああああああ!!!!」


自転車から転げ落ちたのは生まれて初めての経験だった。

とっさに受け身を取れたのは良かったけど・・・


「ば、化け物!!!」


『おい、落ち着け。』



これが落ち着いていられるか!

目の前にはキツネとゴリラと鷹を足して3で割った・・・ちょっと違うか。

もう意味分からなくなってきた。


とにかく一目で人間ではないと分かる何者かがいた。
いたというか浮いていた。





『私は、死神だ。』


「死神!?」


『お前の寿命は今日で終わる。』




夢なのか?ドッキリなのか?

と、とにかく逃げなきゃ!



『そこを動くな河原ハヤタ。』


「は、は、はい。」

一瞬で心が折れた。
逃げられない。怖すぎる・・・。



『お前はこの後、家に向かう途中で信号無視をした車にはねられる。
お前の寿命は今日で終わりだ。』


「え・・・・」



俺が・・・・今日死ぬ・・?





「いきなり何言ってるんですか。」


『あまり信じていないようだな。
よかろう。本当ならこの後どうなるか見せてやる。
私の目をよく見ろ。』



真っ赤なその目を直視するのはめちゃくちゃ怖かったけど、言うとおりにしないと何をされるか分からない。



『お前の脳内に映像を送り込む。
第三者の目線で見せるから、より客観的に自分の死が分かるだろう。』












・・・・・・・・・・


あ、俺だ。
ここからすぐの交差点を自転車に乗って急いでいる。


って危ない!!


横断歩道を渡っていた俺は、スポーツカーに撥ねられた。


・・・・・・


血まみれになり横たわる俺。

そこに駆けつける犬の散歩をしていたおばさん。


サイレンと共に来る救急車。

病院の手術室に運ばれる俺。


その前で取り乱す母ちゃん。



まるで夢を見ているかのように次から次へと場面が変わり、俺は・・・死んだ。


・・・・・・・・・






『以上だ。』

死神の声と共に正気に戻る。



いつの間にか俺は、大粒の涙を流していた。




「これは・・・・本当なんですか?」


『残念だったな。』


「俺まだ14歳ですよ・・・。
明日15歳の誕生日なんですよ!」


『そうみたいだな。』




嫌だ・・・死にたくない・・・

絶対に嫌だ!
まだやりたい事たくさんあるのに。
高校にだって行きたいし。



・・・生きたい・・・・




「まだ死にたくない・・・・お願いします助けてください。」


『私をそこらの無慈悲な死神と一緒にするな。
お前に1度だけチャンスを与えてやる。
だからこうやってお前の目の前に現れた。」



「何でもします。助けてください。」




『今日から3年間、嘘をつき続けろ。』


「へ?」


『今日から3年間、誰かに何かを聞かれたら、常に嘘をつけ。

それが出来たらお前に80年分の寿命をくれてやる。

ただし、一度でも本当の事を言ったらその瞬間、今度こそお前の命を貰う。』




「ちょっと意味がよく分からないんですけど、

もし誰かに何かを聞かれたら、自分が思っていることと逆のことを言い続ければいいんですか?」




『そうだ。口先だけの嘘ではダメだぞ。
もし嘘をついたらその通りに行動しろ。』



「どういうことですか?」



『例えば、“明日学校へ行くか?”と誰かに聞かれた場合、

行くつもりであったなら“行かない”と答えろ。

そして答えたからには学校は休め。

口先だけ“行かない”と行って、その後何事も無く学校に行くのは認めない。』



「そういうことですか・・。」



『私は死神だ。お前の本音は手に取るように読み取れる。

もう1度言うが、もし本音をそのまま口にしたらその瞬間、お前の命は貰う。」




「誰かに何かを聞かれた時だけ嘘をついて、その通りに行動すればいいだけなんですよね?」



『今お前が言った台詞を先程私がそのまま言っただろう。
お前は面白い人間だな。』




「ハハ、簡単だ。そんなの楽勝ですよ!

だって何も聞かれなきゃ嘘をつく必要もない。

口にさえ出さなければやりたいように行動できるじゃないですか。」




『今に分かる。
死ぬより辛い日々がお前を待ち受けるだろう。

ゼウスのじいさんもこの条件ならお前の寿命を延ばすことの許しをくれたからな。』



「ぜうすのじいさん?」



『こっちの話だ。気にするな。

それから、この事を誰かに話すのも認めない。

もし誰かに話そうとしたら、その前に命は貰う。』







宙に浮いていた死神は、更に高くその体を浮かせた。


まるで空に消えていくように。


『次にお前に会うときは3年後の今日、
3月1日23時59分。

もしくはルールを破った時だ。

それはつまりお前が死ぬ時。

私の姿を確認する間もなくお前は逝くけどな。』




最後にそう言い残して、完全にその姿は消えた。





とりあえず助かったっていうことなのか・・・


夢ならもうここらへんで覚めてもいいのにな。


体が寒さを感じ、これが現実だと思い知らされる。


とにかく家に帰ろう・・・。






頭の中はさっきのことでいっぱいだった。


嘘をつけばいいんだ。
それだけでいいんだ。

絶対にやれる。

3年間我慢して、18歳の誕生日を迎えたとき俺は解放されるんだ。


絶対に大丈夫だ。