どうにかチャイムぎりぎりに1-Bの教室に入れた。
 私の席は1番左の窓側であり、さらに1番後ろだ。実花は私の1つ前。右隣の席には最近仲良くなった鳥井優人がいる。

「美麗ちゃん、おはよう。遅かったね」
「実花のせいだよ」
「僕の責任かよ…」

 優人はとにかく優しい。女子の中では「王子様」と呼ばれているほど心優しく、また文武両道なのも加わってまさに「期待の入学生」なわけだ。
 そもそも優人との出会いも、彼の優しさからだった。


 入学式の時、中学で何度か話したことのある実花を見つけ、内心ほっとしたのは言うまでもない。

「ねぇ黒崎実花…でしょ?」
「あぁ。君は…」
「ひねりだせ」
「…坂口!!坂口美麗!!」
「よくやった」

 まぐれなことに同じクラスだったため移動教室も共に行くことが多くなった。
 入学して数週間経った時だ。

「あっ、やばい。教科書忘れた」

 その日はたまたま実花もお休みで、仕方なしに隣の優人に声をかけることにした。
 もともと人見知りが激しい私だけれど、彼はよく読書をしているような内気な人間でさらに話しかけにくかった。

「ね、ねぇ…鳥井。悪いけど教科書見せてくんない?」
「うん、もちろん。僕のことは優人でいいよ。僕は君のこと美麗ちゃんって呼ぶから」

 そう言った優人のこと、その時は馴れ馴れしい奴だなとは思ったけど、今考えると人見知りのせいで緊張して声がうわずっていた私のことを考えてくれていたのだろう。
 それ以来から私は優人と話すようになった。
 
 実花は人懐っこい性格だったしすぐ優人と打ち解けて、私たちは3人で行動するようになったのだった。