ホテルのドアマンに、タクシーを頼み、僕は自分の車に急いで向かった。

 その瞬間、僕の腕にルーシーの腕が絡んできた。

 とにかく、腕を外そうと向きを変えた途端、ルーシーの唇が僕の口を塞いだ。

 思わず、ルーシーを離そうと目を向けると、その先に写ったのはリサだった。


 一瞬思考が止まった。

 今の自分の状況を把握するのに時間が掛かってしまった。

 我に返った途端、一気に汗が滴り落ちた。



 リサは、向きを変えると一気に駆け出していった。


 僕は、ルーシーを押しやると、怒りが込み上げ、鋭く睨んだ。

 ルーシーは無理矢理にでも、僕との関係を作りたかったのだろう……


「ふざけた真似するな! もう、二度と顔を見せるな!」

 そう吐き捨てると、一目散に車に乗り込んだ。

 
 別に、ハグやキスなんて、挨拶みたいなもの……

 だが、リサにはそれが通用しない気がする。


 リサを、ハグした時に触れた、なんともいえない熱い感覚がよみがえってきた。

 益々、焦りが激しく胸を苦しめてくる。


 リサのコンドミニアムの駐車場に車を荒く停める。


 リサの部屋を見上げると、確かに、テラスにリサの影が動いた。

 部屋にいる。


 僕は、リサの部屋のブザーを鳴らした。

 しかし、リサは出てこない。

 何度も鳴らすが、ドアは開かない。


 ドアをノックするが、ドアは開かない。


 僕は、腕時計に目をやった。

 カイトの迎えの時間だ。


「リサ…… 話がしたい。明日また来る」


 やはり、なんの返事もない。


 僕は、ただただ切ない思いのまま、リサの部屋のドアに背を向けた……