一度は、婚約の話は断っているのだが、相手もなかなかしぶとい。

 というより、会長にしてみれば、この婚約が上手いけば、経営の安泰も計れるというものだろう……


 発表会の話は、検討するとして、厄介なのはルーシーだ。


 やはり、仕事の話がすむと会長は帰ったが、ルーシーに話があると言われた。

 なるべく、手早く済ませたいと言う気持ちが、明るみに出てしまったのか、ルーシーの機嫌を損ねてしまったようだ。


「今夜、少しよろしいかしら」

 上目づかいで、長い金髪を片手でかきあげ体を近づけてくる。


「いや、今夜はカイトもいるので」


「それじゃあ、カイトも一緒にどうかしら?」


 はあ? 

 カイトを寄宿舎に入れろ言ったのはお前だろ? 

 カイトの事なんて、これっぽっちも考えていないくせに! 



「いや、ご迷惑おかけしたくありませんので」

 僕は丁重に断わったつもりだが……


「迷惑だなんて、カイトとも上手くやっていきたいと思っていますのよ」

 ルーシーはニコリと笑いながら近づいてくる。


「申し訳ありません。そのつもりは僕には無いので」

 今度は、少しきつめにはっきりと断った。


「それは、どういう意味をさすのかお分かりかしら? 新作発表に影響するのでは?」

 ルーシーの勝ち誇ったような目に、僕は、あっけにとられた。

 このお嬢様何もしらない……


「困るのは、僕では無く、会長の方だと思いますが……」
 
 僕は、冷静に笑みを見せた。


「えっ」

 ルーシ―は、意味が分からないようで、困惑した表情に変わった。


「とにかく、タクシーを呼びますので、お帰り下さい」


 まだ、戸惑っているルーシーを急かすように、社長室のドアを開けた。


 ルーシーは、渋々ドアのへ向かってくる。


 ここで、ドアを閉めてしまえば良かったのに、僕は、ご丁寧にもルーシーを見送りに出てしまった。

 というより、早くリサの元へ行きたかった。

 それが、あだとなったのだ。