到着ロビーに出ると、私は屈んで座り、カイトと目を合わせた。


「カイト、色々ありがとう…… とっても楽しかったわ」


「えー、もっと一緒にいたいよ~」

 カイトがクビにしがみ付いてきた。


「どちらに、お泊りですか? 送りますよ」

 彼がカイトの姿を見ながら言った。


 私が予約をしてある、コンドミニアムの名を告げると、彼が驚いたのは気のせいだろうか?

 彼の住む地区は、校外の高級住宅が並ぶ地区で、以前来た時に、ふらっと立ち寄った事がある。

 しかし、私の宿泊するコンドミニアムのあるシティとは空港からは正反対だ。


「いえ、タクシーで行くので大丈夫です」

 私は丁重にお断りした。


「ええ~ 一緒にいく~」

 とカイトが泣きだすが……


「ありがとう。でも、ここでさよならしましょう」


 私は、カイトに言い聞かせるように言った。


 ジョンを疑っている訳ではないが、例え子供が一緒でも、他人の車には乗らないのが、海外旅行の鉄則と私は決めている。


 彼はじっと、私の方を見ていたが、私の意志を感じとったのか?


「カイト、ここでお別れだ……」

 彼はそう言うと、カイトを抱き上げた。


「お世話になりました」

 私は、ぺこりと頭を下げる。


「いいえ、僕の方がお世話になったんですよ。また、偶然会えたら、お礼に食事でも奢らせて下さい」

 なんとなく、意味深に言うと、ジョンはカイトを片手に抱き、もう片方の手でスーツケースを転がしながら行ってしまった。



 タクシー乗り場に向かい外に出る。

 日が昇り始めた空に、生ぬるい風…… 

 世界遺産の熱帯雨林と、グレートバリアリーフの海の風が混ざり、私にとっては最高に幸せの風だ……

 この風を感じるために、はるばる日本から来たのだから。


 遠くの駐車場に、小さく彼とカイトの姿が見える。

 胸の中が、少しだけキュンと寂しくなったような気がした。


 タクシーに乗ると、今日の予定を頭の中で考える。

 まず、アーリーチェックインを予約してあるので、部屋で少し休もう。

 今日は金曜日だから、マーケットが開催しているはず。

 果物を調達して、スーパーで買い物して朝食にしょう。