機内アナウンスに目を開けると、私の腕の中で眠っているカイトには、子供用のパーカーが掛けられ、私の肩には男物のジャケットが掛けられていた。


 ふとジョンの方を見ると、クビをグルリと回しほぐしている。

 消して太っている訳では無いが、百八十センチ以上はある大きな体格の彼が、エコノミーはさぞかしキツイだろう……


 肩に掛けられジャケットを、綺麗に整えると彼の前に差し出した。


「すみません…… ありがとうございます」


「いえ、カイトのせいで、休めなかったでしょ?」

 彼は申し訳なさそうに、ジャケットを受け取った。


「いいえ…… いつも飛行機の中では寝むれないので、逆に今日は眠れて良かったくらいです」


 何故か、彼がクスッと笑った。
 何故、笑ったのだろうか?


 軽食のサービスが運ばれてくるが、カイトはまだ眠ったままだ。


「お子様のお食事どうされますか?」

 とCAが私に聞いてきた。

 周りから見れば親子に思われるのだろうか?


「結構です」

 変わりにジョンが答える。


 折り畳み式のテーブルを開くと、パンとジュースが置かれる。


「カイトを僕の方に……」


「起しちゃいますから…… 片手で食べられるので大丈夫ですよ」


「しかし……」

 彼は、ふ―っ、とため息を吐いた。


 私も、不思議とカイトの温もりが嫌では無かった。

 可愛いと素直に思うし、ちょっとだけ、人と触れる安心感のようなものがあったのだ。


 ジョンは、パンを袋から出し、私のテーブルに置くと、ジュースの蓋を開けてくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、私はパンを頬張った。


 私を見て、彼がまたクスっと笑った。



 着陸準備の機内アナウンスに、やっとカイトが目を開けた。

 目覚めが悪く、私の腕の中でグズグズと顔を擦りつけている。


「おい、カイト。こっちだぞ」


 彼がカイトの肩をぐっと引き寄せると、カイトは私の方を見て、驚いたように目を大きく開けた。


「おはよう」

 
 私の言葉に、カイトは少し恥ずかしそうに……


「グッ・モーニング」

 と発音良く言った。