「お隣の席みたいだね」

 私はニコリとほほ笑んだ。


 すると、男の子もニコリとして父親の方へ目を向けた。


「僕、真ん中に座るね」


 男の子はストンと真ん中の席に座った。


「カイト、ウィンドウシートがいいって言ってたじゃないか?」

 彼は呆れたように、男の子の頭をぐしゃっとなでた。



「ノー!」


 男の子の返事に、彼は窓際の席へと座った。



 私も自分の席に座る。

 正直言って、知らない男性が隣より子供の方が気楽だ。

 ちょっとほっとして、小さく息が漏れる。


「僕は、カイトって言うの。五歳。おねえさんの名前教えて?」

 カイトと言った子は、人懐っこい笑みを向けてきた。


「私は、里中理紗よ」


「リサ?」


「そうよ。リサでいいわ」

 私はカイトにウインクした。


 カイトは嬉しそうに、親指を立てた。


「隣は、パパだよ。ジョン・ブラウン、三十五歳」

 私は彼の方を見て、頭を下げた。

 ジョンが、片手を差し出してきたので、慌てて私も手を差出て握手した。


「あのね…… パパ、今、すごく怒っているんだよ。気を付けてね……」


 カイトが私に耳打ちをして来た。


「どうして?」


「本当はね、ファーストクラスに乗りたかったんだって。でも、座れなかったの…… 僕はリサの隣で、ラッキーだったな」


 カイトはニコニコとおしゃべりを始めた。


「余計な事を言うな!」


 ジョンがジロっとカイトを睨んだが。

 睨んだ瞳も、凛々しさと優しさがある。


 
「それにしても、カイトは日本語が上手ね……」

 私が、さっきから不思議に思っていた事を聞いた。


「うん。パパのママは日本人なんだよ。だからね、時々日本に来るし、家では日本語が多いの……」


「へえ―。英語も日本語も、お話し出来て凄いね」


「うん!」

 カイトは、嬉しそうに大きく肯いた。



 機内アナウンスが流れ、カイトのシートベルトの確認をした。


「サンキュー」

 彼がさりげなく言った、


「ユウア・ウエルカム」


 私も言葉を返す。


 ペラペラと言う程の英語力はないが、海外旅行ではなんとか通じる英語はしゃべれる。


 機体が動き出し、機内の中も緊迫した空気が流れる。



 しばらく、日本とお別れ……


 夜のライトに光る空港を、窓から覗いた。



 彼が、気を使ったのか、少し体を引き、窓が見えるようにしてくれている気がした。