「……悪いけど、俺このあと用事あるから。
七瀬さん、お会計」

榎本さんが、急に立ち上がって、荷物をまとめ始めた。


「えっ、あっ、はい!」



待って。いろいろ話が急展開すぎてついていけない。

焼き鳥まだ残ってますけど、とか
後輩さんたちと飲まなくていいんですか、とか
「いつもの」以外の言葉初めて聞きました、とか
言いたいことがいっぱいあった。けど。


今……、私の名前、呼んでくれた。


私の名前、知ってくれてたんだなぁ…。


なぜかそれが妙に嬉しくて。

私は自分でわかるほど赤くなった顔を隠すように、
少し下を向きながらお会計を済ませた。


ガラガラガシャン


彼はいつもより30分も早くここを出ていってしまった。