10秒くらい抱き合ったところで。


プルルっと、

ヨウくんの電話がなる。


「ご、ごめん」

ゆっくりと離れた体。


少し寂しく感じたんだけど…



「あ、俊だ」

びくっ。


その名前に反応してしまう私。


柏木先輩……?



「もしもし?俊?…うん、なに?は?ちょっ、とまって、…うん、うん、分かったすぐ行く」


困った顔のヨウくん。


「ごめん、俊が高熱でやばいって。俺、行かなきゃ。」


柏木先輩が…?


「こと、どうする?」


え。


「…行きます」


行ってどうするんだ。


柏木先輩は困るだけで。

なにも……


でも、

後悔するような気が、するから。


✲✲


アパートに着くと、

2階へあがって、

右から3番目の部屋に。


「おい、俊!」


インターホンを押してもでてこない。


がちゃり、


不用心にも鍵は開いていた。



「俊!…おい!」


後ろからのぞく。

柏木先輩は、

壁にもたれかかってぐったりとしていた。


「なんで寝てねえんだよ」


「ちょっと、水飲みたくて…」

かすれた声がしんどさを表している。


ヨウくんが、

柏木先輩をおぶって、

ソファーへ連れていく。


ちらり、柏木先輩が私の方をみた。

どきっ。


「え、琴羽ちゃん…?」


こわ、いな。


「ごめん、俺デート邪魔したな…」


柏木先輩は、そう、言った。



「いやっ…大丈夫、です」

小さい声で、私は言う。


着いてきても、

なにも、できないのに。


なんで私こんなとこいるんだろ。


「はいっていーよ、琴羽ちゃん」


ニコ、と笑う柏木先輩。


「お、じゃまします。」


シンプルな部屋。


なにもなくて。



「俊、なんか食ったか?」


「いや、なんも。冷蔵庫んなか、なんもねー。」


「あほか…。」


二人の仲良さがしみでてる。



「薬と、ゼリーと買ってこないと、な」


「わ、私行きます!」


ついてきたんだからなにかしなきゃ。


「ごめんな、ありがとう。」


「スーパーどこですか?」


ここらへんは、よく知らない。


「あー…そうか。どうしよ。…やっぱこと、ここにいて。俺が行ってくる」


「ははっ、ヨウ、俺と琴羽ちゃん、二人っきりにしていいの?」




しん……。

微妙な雰囲気。


「うん。お前だからだよ。…行ってきます」



靴を履いて、ヨウくんは出ていってしまった。