「……あのね、玲那に言わなきゃいけないことがあるの」
「……なに」
お母さんの緊張した様子にそれが何かたいせつな話だと理解した。それと同時に嫌な予感もした。もしかして、何か悪い病気が見つかったんじゃ……
「新しいお父さんほしくない……!?」
「……え?!?!」
は、なにお父さん?! お母さんいつの間に男作ってたの?! あなたの娘何も聞いてないよ!!
「ごめん今のは冗談よ。私が退院するまでの間、あなた居候してきなさい」
「…………はい?!?!」
母はあたしをひと振り回したあと、よくわからない単語を発した。あれ耳がおかしくなったかな。“いそろう”とかなんとか聞こえたような気がする。磯郎? 海の神さまかな?
「相手さんにはもう電話で了解はとってあるから、明日からそこに行きなさいね」
「明日?! ちょ、そんな待ってなんで急にッ……というかサラッとしすぎ! あたし何も聞いてないし、家はどうするの?!」
「今言ったじゃない。管理人さんにも話してあるから大丈夫よ」
んふふと笑うお母さんはすごく楽しそうで、まるでイタズラを成功させた子供みたいだ。……あれ、この人昨日ほんとに救急車で運ばれた人なの?
「……私だっていついなくなっちゃうかわからないのよ。だからこそ玲那にはもっといろんな人と接してほしいの」
「っ……あたしは大丈夫……一人でだって生きてけるから……」
目をそらすと静かに名前を呼ばれる。そろりとお母さんの顔を見ると頬には一筋の涙。…………泣いてる?!?!