「あの、もしよければ私が届けましょうか……?」
笑みを作りながらお箸を持ってない方の手をそーっと挙げてみる。するとハナさんは少し悩んだあとに、“じゃあお願いするわ”と微笑んだ。
「でも本当にいいの??」
「はい。お世話になってるので、このくらいはさせてください」
「……ありがとう、玲那ちゃん」
「いえ」
……い、勢いで引き受けちゃったけど…………どうしよう緊張してきた……。いや桐が嫌ってわけじゃない。問題は、知らない教室(クラス)に入るってことだ。
そういえば桐のクラスってどこだっけ……?? 前にハナさんが同級生って言ってたから二年生だよね。
「そういえば玲那ちゃん、さっき何か言いかけてなかった?」
「えっ? ……、……いえ何でもないです」
「……そう?」
不思議そうに首を傾げるハナさんに微笑み返したあと、会話を避けるため白米を口に入れた。
『――――――剣道部、廃部になったんだって』
夏休みが明けた頃、保健室で双葉ちゃんがそう言っていたことを思い出す。元々剣道部は三年生数名だけで活動してる小さな部だった。それが進路を決める大事な時期になり、三年生が退部したことで部員がいなくなった。
剣道部が廃部になってから復活したなんて話も聞かないし、存在してない部に入部するなんて出来ない。
つまり桐はハナさんに嘘を吐いてる。でもどうしてわざわざそんな嘘を……
(…………あ)
……ひとつだけ考えられることがある。
(……あたしか)
思い出してみればこの家に来てからの朝は一度も桐と顔を合わせてない。それはあたしが起きたときには桐はもう家を出ていたからだ。
……勝手に仲良くなれたと思ってたけど、そうじゃなかったみたい。硝子越しに見えた庭園の花々を見つめながら、あたしはようやく理解した。