「そうだこれ……」
ずっと握りっぱなしだった紙袋をハナさんに手渡す。中身はここに来る前に駅前の和菓子屋さんで買ってきた栗きんつば。
「あら! これ駅前にある“夢兎(ゆめうさぎ)”さんの?」
「はい。栗きんつばなんですけど、お好きですか……?」
「まあありがとう! 嬉しいわ、丁度食べたくて今日買いに行ったんだけれど売り切れで……」
「私あそこよく行ってて、お店の人と仲がいいので取り置きしてもらってたんです」
なんせ週に二回以上通ってるんだからそれは顔も覚えられちゃうよね。でもおいしいんだから仕方ない。お菓子に罪はないのだから。
「ふふ、じゃあ今夜一緒にいただきましょう? きっと“桐也”も喜ぶわ」
「…………きり、や?」
きりや。多分それは犬の名前ではないと思う。それ以前にこの家がペットを飼っている様子もなかったし。
……じゃあきりやとは誰のことかと考えていると、あたしの疑問をくみとってくれたハナさんがはっとしたように続けた。
「もしかして、絵理ちゃんにきいてないの?」
「え?」
何を。と口にする前にハナさんは続ける。
「桐也はうちの息子。玲那ちゃんとは同級生なのよ」
うふふ、とかわいく笑うハナさんだったがあたしはそれどころではなく、あまりの衝撃に心の中で“まじですか……”とつぶやいた。
えっ、てことは同級生の家に居候するってこと? しかも男子!?
同性ならまだしも、年頃の男女が同じ屋根の下…………それは気まずすぎる。というかお母さん聞いてないんだけど!!
……ああもう。居候初日、さっそく家に帰りたいです。