四話「捕まれた手」
「さあどうぞ、玲那ちゃんの部屋はこっちよ」
彼女は東雲花枝さん。お母さんの高校時代の同級生で、これからあたしが居候させてもらう東雲家の奥さん。お母さんと親友と言われていたこともあってか雰囲気がそっくりだ。どちらかというと彼女のほうがおっとりしている感じがするけど。
……ハナさんに言われるがまま、数日分の着替えを詰め込んだスクール鞄を持って二階に上がる。廊下を進んでいくつか扉を横切り、突き当りの左側にある部屋の前に着いた。
扉には花柄のプレートがかかっていて、ローマ字であたしの名前が書かれている。ハナさんがわざわざ作ってくれたのかな。すごくかわいい。
「開けてみて?」
横に立つハナさんに頷いて扉を開けると、部屋の中から甘いフローラルの香りがした。うわいい匂い!
吸い寄せられるように中へ入り、あたしは驚きのあまり目を見開いた。
「これ……!」
部屋は日の入り方がよさそうな窓がひとつと、シンプルなレースカーテン。その前に木製のデスクがあり、ベットの他には本棚とフローリングの床に座布団とちゃぶ台が置かれている。全体的に派手すぎず大人っぽい印象だった。
……今日からしばらくこの部屋で生活するのか。なんだか緊張してきた。
「どう? 気に入ってくれた?」
「ぁっ、はいすごく!」
ハナさんのほうを振り返って答えると、彼女は“よかった”と嬉しそうに微笑んだ。