「ええっ、なんで泣くの……?」



 あわててそばに寄ってお母さんの肩に手をかけた途端、両手で顔を覆いわあっとさらに泣きだしてしまった。なんで!!? あたしにどうしてほしいの!!

 ……ううん、どうしてほしいかなんてわかってる。“こう”なってしまったら手がつけられないことも。

 昔から母は頑固なところがあった。我慢強いっていうのもあるけど、わがままというか、子供っぽいというか。あたしが高校生になってからはそれに抵抗するようになっていたけど、たまに彼女はあたしの痛いところをついてくる。……これがその泣き落としだ。

 泣かれたらノーとは言えない。あたしの気持ちをわかっててわざとやるあざとい人。

 はああと諦めの息を吐き出した。



「……わかった」



 そう言うとお母さんはぱたりと泣きやんだ。それからそうっと顔を覆う手の指を広げその間からこちらを伺う。



「ただし、あたしのお願いも聞いてくれる?」



 ……不思議そうに首をかしげるお母さんにあたしは“お願い”を話した。はじめお母さんはびっくりしたような顔をしたけど、話し終えると微笑みながら“わかったわ”と頷いてくれた。



「……あとこれは貰っておくからね」



「え? ……あっ」



 枕元に転がっていた目薬を拾い上げ、にこりと笑いながらそれを掲げる。しまったというような顔をするお母さんにあたしはさらににやりと笑った。



「女優になるには本物の涙を使わないとね?」