2月の終わり。最近、さくらが痩せてきた。というより窶れてきた。
さくらは両手にハンドクリームを沢山塗っていた。冷たい水で手を洗うと、手が荒れにくいとはいうものの悴むのも困る。冬はなんだか憂鬱な気分になる。早く終わらないだろうか。冬。
八雲はさくらに話しかけた。
「なあ、今日は休みだしどっか行こうか。遊園地とか!」
「遊園地?お金かかるでしょう?」
「じゃあ、映画見る?」
「映画?いいよ!行こう!」
「でも、どこで見ようか。梅田って言ったって、映画館いくつかあるし」
「空中庭園の下に映画見られるとこあったよね?」
「ああ、まああるけど、何でそこなの」
「普通の映画館もいいけど、たまにはあんまり行かないところで見るのもいいんじゃない?」
「そうか……、解った。そうしよう」
八雲とさくらは中津駅で降りた。梅田駅でもよかったが、あまり距離が変わらないし、運賃が少し安くなるので、そうした。中津駅を出ると、もう梅田スカイビルが見えている。
梅田スカイビルのタワーイーストにつくと、39階が空中庭園の入場口も気になるが、梅田ガーデンシネマとシネ・リーブル梅田があった。
すぐに入れそうなのは11時30分上映分だったので、入ることにした。
タイトルは「97度の愛」
映画の内容は
主人公が幼馴染みの彼女を忘れられず一途に思い続けるも、様々な壁に苦しむ。そのなかで様々な出会いがあり主人公は成長していく。そして、最後は幼馴染みと結ばれる、という話だ。
映画の中の二人の愛はとても熱いものだった。
作品はアメリカのものらしいのだが、どこかフランス映画のような緩やかな時の流れを淡々と描くシーンが多い印象だった。だから見ていて少々退屈さもあるのだが、けれども、作品自体は面白かった。
映画が終わったあと、ふと空中庭園に行きたくなった。午前中降った雨はやんでいたが、まだ曇りだった。
それでもさくらに、行こう、と言うと、いいよ!と喜んで言ってくれた。
空中庭園につくと、大阪の景色が一望できる。ただ、冬の上空は風が強い。寒い寒いと言いながら景色を楽しんだ。
帰り道、梅田に寄ってから帰ることにした。スカイビルの東側にあるトンネルを通って、梅田に出た。
駅前ビルに寄って何か食べるつもりだったが、シュークリームを地下で食べて、東梅田から帰ることにした。
さくらは八雲が東梅田から帰ることに困惑した。
「今里筋線に乗り換えたら帰れるんだろうけど、阪急に乗った方が安いし、早くない?」
「そうだけど、電車好きだし、いいじゃない」
「解った。八雲さんてホントに新し物好きだね。女の子も新しいのが好きだったりして。」
「そんなことないよ」
「古いのも好き?」
「うん」
「私のこと古いとかって思ってる?」
「え、いやいや思ってないよ」
「そう?まあいいけど。」
家に帰ると、すぐに寝転がった。天井をぼんやり見つめると、なんだかデジャヴを感じる。
なんだろう、この感覚は。
そのまま八雲は夜ごろまで寝た。寝落ちる時、ストンと心のなかで響いた気がした。その時、何とも言えない気持ちよさを感じた。
さくらは、夕食を買いに買い物へ行った。八雲は留守番になった。
目が覚めると夕食があった。
お造りとご飯とお燗した日本酒。どれも美味しそうだ。
「いただきます」
「どうぞ。」
「ああ、鯛のお造り、うまい!」
「お酒をどうぞ。」
「ああ、染みる」
人肌燗を飲んだ時、お造りと酒が相俟っておいしかった。
幸せとはこういう何気ない時を過ごせることなんだろうな、とぼんやり考えた。
そこには97度ほど熱くはないが、揺るぎない温もりを感じた。
さくらは両手にハンドクリームを沢山塗っていた。冷たい水で手を洗うと、手が荒れにくいとはいうものの悴むのも困る。冬はなんだか憂鬱な気分になる。早く終わらないだろうか。冬。
八雲はさくらに話しかけた。
「なあ、今日は休みだしどっか行こうか。遊園地とか!」
「遊園地?お金かかるでしょう?」
「じゃあ、映画見る?」
「映画?いいよ!行こう!」
「でも、どこで見ようか。梅田って言ったって、映画館いくつかあるし」
「空中庭園の下に映画見られるとこあったよね?」
「ああ、まああるけど、何でそこなの」
「普通の映画館もいいけど、たまにはあんまり行かないところで見るのもいいんじゃない?」
「そうか……、解った。そうしよう」
八雲とさくらは中津駅で降りた。梅田駅でもよかったが、あまり距離が変わらないし、運賃が少し安くなるので、そうした。中津駅を出ると、もう梅田スカイビルが見えている。
梅田スカイビルのタワーイーストにつくと、39階が空中庭園の入場口も気になるが、梅田ガーデンシネマとシネ・リーブル梅田があった。
すぐに入れそうなのは11時30分上映分だったので、入ることにした。
タイトルは「97度の愛」
映画の内容は
主人公が幼馴染みの彼女を忘れられず一途に思い続けるも、様々な壁に苦しむ。そのなかで様々な出会いがあり主人公は成長していく。そして、最後は幼馴染みと結ばれる、という話だ。
映画の中の二人の愛はとても熱いものだった。
作品はアメリカのものらしいのだが、どこかフランス映画のような緩やかな時の流れを淡々と描くシーンが多い印象だった。だから見ていて少々退屈さもあるのだが、けれども、作品自体は面白かった。
映画が終わったあと、ふと空中庭園に行きたくなった。午前中降った雨はやんでいたが、まだ曇りだった。
それでもさくらに、行こう、と言うと、いいよ!と喜んで言ってくれた。
空中庭園につくと、大阪の景色が一望できる。ただ、冬の上空は風が強い。寒い寒いと言いながら景色を楽しんだ。
帰り道、梅田に寄ってから帰ることにした。スカイビルの東側にあるトンネルを通って、梅田に出た。
駅前ビルに寄って何か食べるつもりだったが、シュークリームを地下で食べて、東梅田から帰ることにした。
さくらは八雲が東梅田から帰ることに困惑した。
「今里筋線に乗り換えたら帰れるんだろうけど、阪急に乗った方が安いし、早くない?」
「そうだけど、電車好きだし、いいじゃない」
「解った。八雲さんてホントに新し物好きだね。女の子も新しいのが好きだったりして。」
「そんなことないよ」
「古いのも好き?」
「うん」
「私のこと古いとかって思ってる?」
「え、いやいや思ってないよ」
「そう?まあいいけど。」
家に帰ると、すぐに寝転がった。天井をぼんやり見つめると、なんだかデジャヴを感じる。
なんだろう、この感覚は。
そのまま八雲は夜ごろまで寝た。寝落ちる時、ストンと心のなかで響いた気がした。その時、何とも言えない気持ちよさを感じた。
さくらは、夕食を買いに買い物へ行った。八雲は留守番になった。
目が覚めると夕食があった。
お造りとご飯とお燗した日本酒。どれも美味しそうだ。
「いただきます」
「どうぞ。」
「ああ、鯛のお造り、うまい!」
「お酒をどうぞ。」
「ああ、染みる」
人肌燗を飲んだ時、お造りと酒が相俟っておいしかった。
幸せとはこういう何気ない時を過ごせることなんだろうな、とぼんやり考えた。
そこには97度ほど熱くはないが、揺るぎない温もりを感じた。