1月11日。
お店の再開。常連客でカウンター席が埋まる。
こういう時、「よく復帰できたね」とか「大丈夫だったか?」のような店主を気遣う言葉が飛び交うと思ったが、
「さくらちゃんのハンバーグ、久しぶりに食べたかったんだよね」の言葉が一番多かった。
店に戻ってきたとき、メニューの札の中で、中華料理店にも拘わらず、チャーハンや麻婆豆腐よりも「ハンバーグ」をイチオシ!としていたのは、解らなかったし、作れなかった。
しかし、どうやら、ハンバーグはさくら担当であるらしい、ということをあとで知った。
八雲がチャーハンを作っているとき、常連客がいきなり、八雲くん子供いないの?
と訊ねてきた。
慌ててチャーハンを中華鍋からこぼしそうだったが、曖昧に濁しておいた。
すると、さくらは
「私たちまだ若いですし、子供はまだ」
と返した。
「いやいや、若い時に生まないと」
「こればかりは授かり物ですし、私たちも頑張らなきゃ、って思っているんですよ。」
この言葉に、何を思ったか店内がどよめいた。
「そうかそうか。八雲くん、きれいな奥さんがいるんだから、昼だけじゃなく夜も『頑張る』んだぞ。」アハハハ
なんて下世話なんだ。と辟易しながら、横をちらっと見た。申し訳なさそうにこっちを見ていた。
このままじゃ、空気が悪くなる気がしたので、「冗談やめてくださいよ、お客さん」と笑いながら答えた。
お店が終わったあと、店を閉め、居住スペースでさくらと話す。
「そういえば、ここハンバーグがイチオシだったよね」
「うん。」
「ハンバーグ食べたい」
「えっ?!そうか、病院にいたときは食べてなかったもんね」
「そう!だからお願い」
「解った。待ってて!」
店のスペースには、ハンバーグの肉汁とデミグラスソースの香りが広がり、ハンバーグを焼く音が、耳をくすぐる。ただでさえ空腹で泣きそうだった胃袋が、ぐうう、と悲鳴をあげていた。
「はい、どうぞ!」
さくらがそう言って目の前に、ハンバーグを出した。
ステーキ皿にハンバーグがのっており、彩りをよくするため、小さく切ったブロッコリーとニンジンがあり、ポテトも少々あった。ソースは、美しいブラウンのデミグラスソースと濃い赤色のケチャップソースがあり、それぞれ白のドレッシングボウルに入れられている。
「いただきます!」と言って、まだ、ジュージューいっているハンバーグにデミグラスをかける。ジュー、という音がさらに大きくなり、再び、匂いが広がる。
そして、ナイフとフォークで食べる。ナイフを入れると、すぐに切れて肉汁が溢れだす。そしてまた、匂いとジュージューという音が広がる。
フォークでさしてハンバーグを熱々のまま口に運ぶ。肉汁がデミグラスソースのコクと合わさって深い味がする。食感はやわらかくて、ずっと口の中に入れておきたいくらい美味しい。
ああ、ライスがほしくなってきた。と思っていると、はい、とライスを出してくれた。
「うまい、本当にうまい!」と興奮気味に言うと、さくらは「良かった!」と照れていた。
「ハンバーグ作るの上手なんだね!」
と八雲が言うと、空気が変わったのを感じた。
「えっ?それ、どういうこと?」
「何が?」
「私、料理のためにフランスへ留学して、覚えて来たんだから美味しいに決まってるでしょ!」
「…………そうだったね」
「やっぱり」
「何が?」
「私、海外に行ったこと無いよ。」
「どういうこと?」そんなはずは……
一番恐れていたことが現実になった。
「私のこと覚えてないよね」
お店の再開。常連客でカウンター席が埋まる。
こういう時、「よく復帰できたね」とか「大丈夫だったか?」のような店主を気遣う言葉が飛び交うと思ったが、
「さくらちゃんのハンバーグ、久しぶりに食べたかったんだよね」の言葉が一番多かった。
店に戻ってきたとき、メニューの札の中で、中華料理店にも拘わらず、チャーハンや麻婆豆腐よりも「ハンバーグ」をイチオシ!としていたのは、解らなかったし、作れなかった。
しかし、どうやら、ハンバーグはさくら担当であるらしい、ということをあとで知った。
八雲がチャーハンを作っているとき、常連客がいきなり、八雲くん子供いないの?
と訊ねてきた。
慌ててチャーハンを中華鍋からこぼしそうだったが、曖昧に濁しておいた。
すると、さくらは
「私たちまだ若いですし、子供はまだ」
と返した。
「いやいや、若い時に生まないと」
「こればかりは授かり物ですし、私たちも頑張らなきゃ、って思っているんですよ。」
この言葉に、何を思ったか店内がどよめいた。
「そうかそうか。八雲くん、きれいな奥さんがいるんだから、昼だけじゃなく夜も『頑張る』んだぞ。」アハハハ
なんて下世話なんだ。と辟易しながら、横をちらっと見た。申し訳なさそうにこっちを見ていた。
このままじゃ、空気が悪くなる気がしたので、「冗談やめてくださいよ、お客さん」と笑いながら答えた。
お店が終わったあと、店を閉め、居住スペースでさくらと話す。
「そういえば、ここハンバーグがイチオシだったよね」
「うん。」
「ハンバーグ食べたい」
「えっ?!そうか、病院にいたときは食べてなかったもんね」
「そう!だからお願い」
「解った。待ってて!」
店のスペースには、ハンバーグの肉汁とデミグラスソースの香りが広がり、ハンバーグを焼く音が、耳をくすぐる。ただでさえ空腹で泣きそうだった胃袋が、ぐうう、と悲鳴をあげていた。
「はい、どうぞ!」
さくらがそう言って目の前に、ハンバーグを出した。
ステーキ皿にハンバーグがのっており、彩りをよくするため、小さく切ったブロッコリーとニンジンがあり、ポテトも少々あった。ソースは、美しいブラウンのデミグラスソースと濃い赤色のケチャップソースがあり、それぞれ白のドレッシングボウルに入れられている。
「いただきます!」と言って、まだ、ジュージューいっているハンバーグにデミグラスをかける。ジュー、という音がさらに大きくなり、再び、匂いが広がる。
そして、ナイフとフォークで食べる。ナイフを入れると、すぐに切れて肉汁が溢れだす。そしてまた、匂いとジュージューという音が広がる。
フォークでさしてハンバーグを熱々のまま口に運ぶ。肉汁がデミグラスソースのコクと合わさって深い味がする。食感はやわらかくて、ずっと口の中に入れておきたいくらい美味しい。
ああ、ライスがほしくなってきた。と思っていると、はい、とライスを出してくれた。
「うまい、本当にうまい!」と興奮気味に言うと、さくらは「良かった!」と照れていた。
「ハンバーグ作るの上手なんだね!」
と八雲が言うと、空気が変わったのを感じた。
「えっ?それ、どういうこと?」
「何が?」
「私、料理のためにフランスへ留学して、覚えて来たんだから美味しいに決まってるでしょ!」
「…………そうだったね」
「やっぱり」
「何が?」
「私、海外に行ったこと無いよ。」
「どういうこと?」そんなはずは……
一番恐れていたことが現実になった。
「私のこと覚えてないよね」