【亜子side】

 屋上の重たい扉を開けると、果てのない空が広がっていた。空の色はいつ見ても胸がすっとするほど綺麗。

 澄んだ空気を肺に取り込む。
 ひやりとしてて、寒いけど気持ちいい。

 柵に凭れてポケットから飴を取り出す。
 赤い包み紙の、コーヒー味の飴玉。

 それをぽいっと口に入れて転がす。
 ほんのり甘くて、苦味もあって。

 私はこの飴を、五歳の頃からずっと舐め続けている。

 私、鈴山亜子は今年で中学2年生になった。14歳だ。

 だから、もう9年になる。

 スカートのポケットからオレンジのイヤホンとスマートフォンを取り出す。
 音楽を流して眼を閉じた。

 私の初恋は、五歳の頃だった。