* * *


 春休みの間はずっと待った。



 あの子を。


 サキを。



 でも、現れないんだ。


 桜が散っても、来てくれないよ。



 もう今年が最後なのに。


 大学は他の県に行くから、今年が最後なのにな…。



 会えたら、連絡先を交換しようと思った。


 最後に会ったときは、携帯なんて持っていなかったから。この間スマホ買ってもらったから、さ。


 そうすれば、ずっとメールで喋ってられるし、会いたいときに会えるし、電話も出来るし。



「…枯れたときに、来るっていったじゃん、この前、」



 ねぇ、なんで来ないんだよ、サキ。


 毎年来るって、また来年って…。



「……桜って、どうしてあんなに綺麗なんだろうな」


 笑ってよ、笑い声。


 真面目な返事でも構わないから。


 僕の問いに、答えてくれよ。
 


 風の音がする。


 車の音がする。


 鳥の鳴き声も聞こえる。


 でも。
 


 キミの声は聞こえない。


 それは、なぜだろう。



 理由、もしかして、キミはもう——



「桜、ずっと散らなきゃいいのになぁ!」



 公園に、僕の声が響いた。





 次の瞬間、風が僕の声をどこか遠くに運んで行った。



 花びらが私の手に乗る。



 桜が散る。




「サヨナラ」



僕の思い出は、この桜の花びらと一緒に、


どこかに飛んで行ってしまうんだ——