「竹入もな」

「え?」

彼がその場でゆっくりと立ち止まる。
数歩先に進んだところで私も歩くのをやめて、彼に振り返る。


一メートル先に彼は、真剣な表情で私を見つめていた。

そして。


「俺も、お前のことよく知らない」


ドキン、と胸が跳ねる。
これは恋のドキドキ……とは少し違う気がした。


「真面目で大人しくて、ちょっと天然だけど優しい奴だっていうのは知ってるよ。だけど、そんな奴が何でそういう派手な格好してるのかは知らない」


何て返したらいいか分からない。
本当は、全て話してしまいたい。
でも、言えない。
莉菜達が、何してくるか分からない。


俯いて口を噤んでいると、近田君はちょっと慌てた様な口調で


「困らせたい訳じゃないからっ」


そう言うから、私は顔を上げた。



「無理に話せとか言ってる訳じゃないから。
いつか……な」


彼は、さっきまでの真剣な表情じゃなくて、ふわりと優しく笑いながらそう言ってくれた。

その表情にも、短い言葉にも、酷く安心してしまう。


近田君は再び真っ直ぐに歩き出す。彼が隣に並んだところで私も足を動かす。


初めて一緒に帰ったあの日。あの日も彼から金髪の理由を尋ねられた。あの時は適当に誤魔化したけど、全然誤魔化せてなかったっていうことだよね。


「……私、嘘吐くの下手かな?」

気が付いたらそんなことを口にしていて。

私の質問に対し、近田君は。


「嘘を吐くのが下手っていうか、作り笑いが下手なんだよ、お前は」