「今日さ、楽しかったね!」

沈黙が続く気まずい空気を壊したくて、そして、自分に都合のいい妄想をし続けてしまう思考をリセットしたくて、私は無理やり話題を振った。
無理やりだったから、少し声が裏返った。情けない。

でも近田君も「ああ、また行きたいよな」って言ってくれて。

楽しかったなって言ってくれるだけでもきっと物凄く嬉しかったのに、〝また行こう〟っていう返事には幸せすら感じた。


「……私、皆と仲良くなれて良かったよ」

この気持ちは、会話を続ける為に無理に発した言葉なんかじゃない。本心からそう思った。


「入学式の日から、皆が私を避けてるのが分かってたからさ。友達出来ないのかなって悩んでた。
でも近田君のお陰で皆と仲良くなれたよ。ありがとう」

近田君がぽかんとした顔で私を見つめる。
照れる訳でもなく、ぽかんと……ぽかん?


「はっ! ご、ごめん! 突然何言ってるんだって感じだよね⁉︎」

今日楽しかったなって話をしてただけなのに、急に改まってお礼言っちゃったりして! だから近田君も〝何だこいつ?〟って顔したんだよね⁉︎


だけど近田君は。


「……そうじゃねえよ」

「え? あ痛っ」

彼の右手の甲が、こつんと私の額に当たる。

「俺は何にもしてねえだろ。どう考えても。お前がいい奴だから皆が寄ってきてんだろ」

……あ。今度はいつもの、ちょっと照れた顔。照れてる時は決まって目を合わさない。

近田君。近田君にそんな風に言ってもらえたら、舞い上がっちゃう位に嬉しいよ。

でもやっぱり、皆と仲良くなれたのは近田君のお陰だよ。
近田君が私のこと外見だけで判断しないでくれて、話し掛けてくれる様になったから、皆と会話するきっかけが出来たんだよ。