「とにかく、俺は無理に誘われたとか思ってないから」

そう言って、彼は席を立ち上がる。


「え、え? どこ行くの?」

「どこっつうか、自分の席に戻る。俺がずっとここにいたら堀が戻らないからな」

「え? 堀君に席交換してって頼まれたんだよね?」

私の言葉に、彼は私にだけ聞こえる位の小さな声で。


「……頼んだのは俺だよ」


そう答えて、私からさっと目を逸らし、自分の元いた席に戻っていった。


少しだけ不機嫌そうな顔は照れ隠しの表情だって、最近分かる様になってきた。
すぐに赤くなる顔は、今も耳まで赤くなっていて、それはきっとライトのせいじゃない。


『頼んだのは俺だよ』


近田君。それって、自ら私の隣に座りに来てくれたってことですか?

自惚れたら、いけないよね。

でも。


嘘を吐くのが得意な人じゃないってことは分かってるの。だって近田君、すぐに顔に出るし。

嘘を吐くのが嫌いな真面目な人だってことも分かってるよ……。


だから、胸がドキドキする。


その後は杏ちゃんが私の隣に来てずっと一緒にいたから、近田君と二人きりで話すことはなかったけど、それでも、幸せな気持ちはずっと消えなかった。