「え……?」

「このまま黙って引っ越すつもりだったけど、やっぱりお前の顔見たら、そんなこと出来ない……お前のことが好きすぎるから」

「総介君……」

「会いに来てくれてありがとう。黒髪、見せてくれてありがとう。勇気もらった。本当にありがとう」

いつも勇気をもらっているのは私の方だよ……なのに、ありがとう、なんて。私もあなたに伝えたい〝ありがとう〟がたくさんあるよ。ありすぎて、今は全部伝えられない。だから。


「会いに行ってもいい?」

私を抱き締めている彼から少しだけ顔を離して、至近距離で見つめながらそう言った。


「総介君が会いに来られないなら私が会いに行く」

「……」

「確かに、会えなくて寂しくなることはあると思う。でも、平気だよ。私……


総介君のお陰で強くなれたから」


顔にかかっていた黒髪を、そっと耳にかけた。

この黒髪は、彼からもらった強さの証だ。この髪は、もう二度と金髪にはしない。


すると。



「……うん」


短くそう答えた彼は、優しく、一瞬、でも確かに、私の唇にキスを落とした。


そして背を向けて、車の助手席に乗り込む。


その姿を後ろから見つめていると、助手席の窓が開き、彼が顔を出す。


しばらく会えなくなる。次はいつ会えるかまったく分からない。だけど彼の表情は明るく、


「じゃあな。……じゃないか、えーと、



またな!」