「俺、軽いんかな……。ついさっきまで、春日のこと……だったのに」

「基紀君……?」

「松岡さんのこと、急に気になる」

え? と思わず聞き返してしまう。

だって、空耳? 基紀君が私のこと……。


「……松岡さんが悪いでしょ。君みたいな可愛い女子にそんなに一生懸命告られたら、落とされない男子いないからね」

そう言いながら私と目を合わせてくれる彼の顔が赤くなっているのが分かった。

私の顔も、段々と熱を帯びる。


「じゃ、じゃあ。私と……」

「うむ」

付き合いますか、と基紀君は言った。

嬉しい。想いが届いた。それどころか彼も私のことを……。


「あ。けど松岡さん、約束して? 春日みたいな外見になるとか絶対言わないで。松岡さんは黒髪が似合ってるし、あんなアホ丸出しの外見になることないからね」

「基紀君、それ酷い言い様だけど、たった今まで春ちゃんのこと好きだったんじゃ……?」

「今、俺のベクトルは完全に松岡さんに向いてるから。春日とかマジどうでもいいから」

基紀君はいつもの冗談口調で笑いながらそう言う。


……もしかしたらだけど、どうでもいいとは思っていなくて、彼のベクトル? は本当はまだ春ちゃんに向いているのかもしれない。
だけど、私に気を遣ってそんな風に言ってくれているだけかもしれない。


それでもいい。
だって、ほんの少しは私にもベクトルが向いていることに間違いなさそうだから。


今はそれだけで充分だよ。