どう足掻いたって怖くて踏み込めなかった。
さっきキスしようとしたのだって、もういっそ完全に嫌われてやろうかなって考えだった。
でも、あの日の言葉の正しい意味を、ようやく知ったから。
……俺だって、あいつに負けてられないじゃん。
「……なるみ」
兄貴のことは好きじゃないっていう人質ならぬ言質ならば取った。
好きな人……がいるのかは、知らねえけど。
「……キスマークって、
なんで女の子に付けとくか知ってる?」
好きだって言ってやりたい。
だけどなるみの気持ちが向くまで言ってやらない。
まさか……?って。
薄ら俺の気持ちに気づきながらも悶々とすればいい。俺の片想い歴ナメんなよ?
「言ったろ? マーキングだって。
……つまりは、『俺の』って意味」
紅く色づいたところを撫でて、そこにくちびるを落とす。
人が通らないにしろ外でやることじゃないのはわかってるけど、今じゃなきゃこれ以上大胆にはなれない。
「……っ、ねえ、衣沙、」
ぴくりと震えて、動けなくなってるなるみ。
意識して、頭ん中、俺だけにすればいい。
「……絶対譲ってやんねえよ」
一度くちびるを離して、白い肌の上にもう一度キスを落とす。
今度こそ、そこに俺の気持ちを刻んでしまえば、キスマークの数はふたつになった。……それでいい。
「……綺麗についた」