シュートは思っていたよりリラックスしてる様子でサークルに登場した。

このBサークルにも勢いのある若手ヒップホッパー「bingo」や、学生No.1ハウサー「JIN」など実力が均衡するダンサー達がひしめき合っていた。

「予選Bサークル…レディ…ゴー!!」

MC.JOEの合図でDJがスピンする…最初にかかった曲はバイブス高めのイケイケなヒップホップ。

ここぞとばかりにbingoが飛び出した。
若手ながらアグレッシブなノリと曲を楽しむアティチュードを兼ね備え、若手主体のバトルでは常に上位に食い込む強者だ。
トラックからリリックまで様々な音を体で表現しながら会場を沸かせた。

そしてそれに負けまいと他の若手達も次々に出てくる。

そんな中、シュートとJINは静かに自分の出るタイミングを伺っていた。

曲が変わり、一転ジャジーなハウスミュージックになった。

この期を逃すまいとJINが一歩足を踏み出した瞬間、サークルの中央にシュートが飛び出していた。

シュートはリズムを刻みながらメロディーを意識しつつも自分で音を作り出すような踊りを見せた。
その感覚と音楽とのシンクロ感に会場が一気に呑まれた。
審査員までもが前傾姿勢でシュートの踊りに見入った。

シュートのムーブが終わり圧巻の空気の中、JINが出てきた。身内の声援に支えられ、学生としては高いポテンシャルを発揮するも、シュートにペースを乱され見せ場を作れないままムーブを終了した。

そして審査結果。

審査員満場一致でシュートだった。

会場全体が「アイツは誰だ?」と言ったようなどよめきでざわついていた。

帰ってきたシュートを俺たちはみんなハイタッチで迎え入れた。

「あの曲知ってたの?」

とミラーが聞くと、

「全然知らないよ。でもあの曲だったらロックの対応できたし、JINの出鼻挫けるかなぁと思って。」

とシュートはあくまで冷静に振り返りながら答えた。

シュートの状況判断と対応力、音に対する感性は天才的に研ぎ澄まされていた。

俺は心のどこかで嫉妬していた…。