俺は隣にいたシュートの肩を叩き、

「あの人ヤバくない?」

とその人を指差した。

「あ~めちゃ上手いな!暗くてよく見えないけど…誰?」

とシュートは俺に聞き返す。

「俺もわからん!けど上手くねぇ!」

とシュートと会話してるとそれを聞いていたのかミラーが、

「俺、行ってくるわ!」

とその人の前に行き、持ち前の高いテンションでいきなりバトルを仕掛けだした。

その人はいきなり目の前に現れたハイテンションなミラーに困惑した様子で苦笑いしていた。

「あぁ…空気読んで~。」

俺とシュートはフロアの空気をガラッと変えるミラーの行動にハラハラ感とため息を滲ませた。

しばらくするとその人はミラーの挑発に対し、仕方なさそうな顔をしながらも乗ってきた。

これは見物だと言わんばかりに俺達は2人を囲み、周りのダンサーを巻きこんでサークルを作り上げた。

近くで見ているとこの人には見覚えがあった。しかし、後一歩のところで名前が出てこない。

ミラーがlockで仕掛けたのに対して、DJの選曲した曲調に合わせるようにhiphopにlockを混ぜたstyleで返し、再びミラーが飛び出しアクロバティックな技を次々と繰り出し、サークルを作っていた他のダンサーからも歓声が上がる。

その歓声の中で俺はやっと名前を思い出した。

すぐさまシュートに耳打ちをする。

「この人、シャークさんだ!」

「え!マジで!?」

シュートはその名前に目を丸くした。

俺らの目の前で踊ってるこのシャークと言われる人は、5年ほど前に一世を風靡したbreakチーム「sea planet」のオリジナルメンバーの1人でありながらold(lock、pop、break)からnewschool(hiphop、house…etc)まで幅広くこなす『天才』と呼ばれるダンサーの1人だ。今はチーム活動は少なくなり、あまり人前に姿を現すことがなくなっていた。

そんな人を目の前に俺とシュートはそのジャンルレスな踊りの一挙手一投足に持てる五感の全てを集中させた。