そんな私の頭をマドカは優しく撫でてくれる。





「オシロって名前が、本名だなんて思ったことなかったよ」






そんな私たちに水を差すように、ジョージは震えた声でもがき始めた。






「いてー、いてーよ…」





そして、私に向けていた注射器を自分の腕に刺した。






本物の覚醒剤なのだろう。幻想の中へ導かれたジョージは、痛みが消えた幻想に入り、わらいだす。






その姿に固まっていた警察官たちが、ジョージに手錠をかけ、逮捕された。





「マドカ、助けてくれてありがとう」






「こちらこそ、来てくれてありがとう。オシ…真白」






マドカの笑顔は今までで、一番、綺麗に見えた。やっと自由になれたような、ふっきれたような笑顔だった。






これで、私たちは偽りのない親友だっておもってもいいんだよね?






そんな余韻に浸っていると、またもや水を差すように、石川が私たちの前に立つ。






「マドカさん、あなたも申し訳ないけど署に来てもらうわよ」






石川は言いにくそうに、でも、仕事なんだから仕方がない。手錠をもって私たちに近づいて来た。





私を助けてくれたマドカが、ジョージと同じように捕まってしまう。






「石川さん、見てたでしょ?マドカは私を助けるためにジョージを刺したんだよ⁉︎」






ずっと、ダメな男とわかっていながら、支えていた男を刺させてしまった。





私を助けるために、罪を犯してくれた。






そんな、マドカを逮捕されたくない。






悪くない。






「真白、いいの。私はジョージと同じ…ドラッグ打たれて、狂ってるの。今は普通にみえても、突然幻覚や幻聴が聞こえる…元に戻りたいの」






元に戻りたい…





その言葉に、私は状況を受け入れるしかなかった。





「ごめん…助けてくれたのに、助けれなかった…」






無力でやっぱり私は欠陥品何だと思い知らされる。






悔し涙がとめどなく流れて、自分だけ取り残された気分だった。






本当は、私だって罪を犯したことがあるのに、罰せられることはない。





証拠もないから。







連れていかないで…
大切な唯一の友達なのに。





それは、実際に言葉には出さずに、心で叫ぶ。









マドカを助けたいのに、私ではドラッグを抜くことは出来ない。





「ねえ、真白。一つだけ訊いていい?」





石川は慣れた手つきでマドカの手首に手錠をかけていく中、マドカはそれをみつめながらきいた。





「なに?」






すると、不安そうな顔で私を見つめる。






「私は真白を友達だと思ってていいのかな?」






その質問に、胸が痛くなる。
ずっと、ただ気づいたら遊んでいた関係。






だけど、気づいたら私はマドカを頼り、マドカも私を頼ってくれる。





口約束や関係性を気にしたことなんて、正直なかった。でも、今ならハッキリ言える。





「親友に決まってるじゃん!マドカ」





マドカは、徐々に大粒の涙へと変わっていく。そして、心からマドカは嬉しそうな笑みを浮かべていた。







「ありがとう、真白」






涙を流し、ここ一番の笑顔を私にくれたマドカ、私も忘れないでという思いを、笑顔に込めて、頷く。






そして、マドカは前を向き、石川に連行されていく。






倒れそうな私を、瞬が支えてくれた。






「僕たちもいこう」





瞬に背中を押されて、私も一歩ずつ歩き始めた。






もう、二度と踏み入れることはないだろう。






錆びた私たちの最期の居場所。




事件の後、私は行き慣れた警察署に連れていかれてしまった。





マドカたちとは別で、久しぶりに私は母親に連絡されてしまう。





その中で、私は初めて出逢ったように瞬と二人で聴取の部屋で待っていた。





「私、帰りたくないよ」






ただでさえ、マドカとのことで情緒不安定なのに、母親の元へ戻されてしまったら、私の心が砕けてしまう。





どうせ連れ戻されて待っているのは、マドカにとってのジョージみたいな恐怖な人材でしかない。





「どうしたらいいのか…」





瞬も悩んだ表情を浮かべる。





「このまま帰らされたら、もう二度と瞬ちゃんに会えない気がする。それに、またあの日々なんて耐えれないよ」






「真白」





わかってる。私ですら回避する方法が見つからないのに、瞬だっていい案が見つかるはずがない。





このまま、私も捕まってしまったらよかったのかな?






そしたら、マドカを一人にしないで済んだ?
そんな稚拙な考えばかり浮かんできてしまう。






でも、私はやっぱり瞬がいるなら、この世界に居たい。






そして、いつか、マドカが戻ってきたら、私が居場所になってあげたい。
そんな私たちに、時間は待ってはくれない。
何も答えが出せなくても、何故か警察の言うことには従ってくる母親がいる。





「親御さん到着したぞ」






前みたいに宮城の声が聞こえた。






「わかりました」





素早く答える瞬だが、顔は沈んでいる。
このまま、瞬にもう一度、さらってもらいたい。でも、それをしてしまえば、瞬まで捕まっちゃうか。





「真白」





瞬は、不安は拭えないが、真っ直ぐとした瞳で私を見つめる。






「逃げれるなら、逃げて」






囁くような小さな声。
それでも、私の心に響いてくる。






そして、目が合うと、不安でも、信頼できる瞳でうなずいてくれた。






そうだ、私も不安がってはいられない。
問題は自分で切り抜けなければいけないんだから。






「わかったよ」






私も、瞬に強い決意をした瞳で頷き、そして、私たちは母親が待つ入り口へ向かった。






10日ぶりに会う母親。








相変わらず、そばにはあいつを連れている。






でも、私は母親のもとには帰らないんだ。





久しぶりの母親とその彼氏は、私をみるなり、母親は駆け寄ってくる。
相変わらず、心配する演技は上手い。






「真白、心配したのよ」






そんな言葉で、迎えられるけど、この10日間で母親が私に連絡は一切よこしてこなかった。





探していたなら、メールでも電話でもしてくるはずなのに、一度もなかったんだ。






「じゃあ、真白気をつけてかえるんだぞ」






宮城はそういった。






「マドカは?マドカと面会はできるの?」





その質問に、宮城も瞬も言いにくそうに俯く。






「マドカちゃんは、クスリの副作用が出てるらしくて…緊急で病院にいったらしい。多分、病院からこれから裁判にも行くと思うから…」







答えは、会えないってことか。






あんな男のせいで、マドカが幻覚に苦しまなければならなくなった。





私がもし、ずっとマドカの家に遊びに行っていたら、こんなことにならなかったのかな?




裁判だなんて、本当に犯罪者扱いだ。





ごめんね、マドカ。
私は無力で助けてあげれなかった。







悔しくて、止まっていた涙が溢れそうになる。





どうしてだろう。
私が一人で行くあてがないとき、マドカは声をかけてくれて、家に泊まらせてくれた。






私が、瞬と出逢い居場所をもらった時に、マドカはろくでもない彼氏に監禁されてしまった。






もっと、私がちゃんと、マドカに寄り添ってあげてればよかったよ。







感情なんて、友情なんていらないと思っていたのに、失う間際でマドカの大切さを身に沁みた。






なんて私はバカなんだろう。







大切なものすら分からなかったなんて、結果がこんなのなんて、自分が滑稽で嫌になる。






「マドカの親は、マドカがジョージに拉致された事も気づかなかったんだよね。うちの親と一緒だわ」






私は母親を睨み、彼氏も睨んだ。






欠陥品と呼ばれ、出て行けと言われた。






「真白」






母親の目つきも厳しくなる。






「マドカは、あんたが追い出した私を受け入れてくれたんだ!私は大切な友人を失ったんだよ」






私は母親たちより先に、警察署を出て行った。






そんな私を追うように、母親たちも出てくる。






「真白、待ちなさい」






外に出ると、さっきとは違ういつもの怒り顔。やっと本性でてきたか。対して私を必要としていないくせに、いい親ぶる姿をみると、吐き気がする。






これ以上、距離を詰められたくはない。






「私がいない間、連絡もしてこなかったのに、心配してるふりなんてすんな!」






私の怒鳴り声は警察署の建物のせいか外でも響いているのが分かる。





その声に、宮城と瞬も外に出てきた。






でも、それは母親たちは気づいてないらしい。どこまでも醜く、自分のことが一番可愛い。そんなやつが、親を名乗る資格なんてないんだよ。







「あんたは、勝手なことばかりするからでしょ?お母さんから彼も奪おうとして、あんたは何がしたいの?」






その言葉に、私は頭に血がのぼる。






「ふざけるな!その男は私をおもちゃみたいに扱うんだよ。こんな男大っ嫌いだ。あんたも女なら、もっとまともな男連れてこいよ。お父さんといい、選ぶセンスないんだよ。母親なら、娘の話をちゃんと聞けよ!」






私は言いたいことだけぶちまけると、一目散に走って逃げた。






逃げるんだ、捕まって帰るわけにはいかない。私の居場所も大切なそばにいてくれる人も、瞬以外本当にいなくなってしまった。






母親の呼ぶ声に、振り向くこともせずに、ただ私は今の大切な居場所へ走って行く。





ここだけは失いたくないんだ。






大切な人が迎え入れてくれた場所。







走り去る私を見送った母たちは、ようやく宮城たちの存在に気付き、ばつが悪そうに会釈する。






「家庭のことはとやかく言えませんが、真白さんはまだ高校生で、精神的にも子供と大人の狭間で悩みやすい時期です。ちゃんと向き合ってあげてください」







宮城はそういうと、中へ入って行く。
瞬も慌てて一礼して、宮城の後を追った。






「ありゃ、かなり深い溝があるな」






追いついた瞬に、宮城はそう呟いた。
そんなこと、前から分かっていたはずだ。でも、結局他人の家族に警察は無断で、立ち入ることなんて出来ない。





「そんな家族に、僕たちは何をしてあげれるんでしょうか?」






崩れて行く家庭を、分かっていても何もできない。その結果、マドカみたいな最悪の結果を迎えてしまう事もある。






味方でいてくれるはずの家族が、自分たちにとって、恐怖的な存在なんて、経験している人にしかわからない。





血の繋がりが抗えないために、縛られる自由。





自分が大人になるまで、逃げ切れない場所で、殺されずにいるだけましだというのだろうか?






歪な光

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