(ふわぁ~……)



やっぱり旅館だ。
しかも、とびきり上等な…
通されたお座敷は、広くて、掃除が行き届いていて…渋い水墨画の掛け軸はきっと有名な人が描いたものなんだろう。
庭からは鹿威しの音が聞こえて…
どこを見ても、ただ、緊張感ばかりが募っていく。



私と那月さんは並んで座ってる。
今からここで一体何が起きるんだろう?
時間も時間だし…もしかしたら、食事とかも出るんだろうか?
だとしたら、すごく助かるけど…



そんな厚かましいことを考えてたら、襖が開いて、年配の人達が入って来た。
こんなお屋敷に住んでいるのがぴったりな、上品な人たちだ。
二人共和服だし、雰囲気的にもご夫婦かな?って思えた。



「父上、母上、ご無沙汰いたしております。」

那月さんが頭を下げたので、私もその動作を真似た。
顔を上げたら、お父さんの視線が私を突き刺していた。
ど、どうして?
私、なにか悪いことした?
そもそも、お父さんとは初対面のはずなのに、どうしてそんな目で私を見るの??
そりゃあ、私の格好はこのお屋敷には不釣り合いだけど、それは急なことだったからで…
って、確かにろくな服も持ってないけど…
でも、そんなことで睨まれても…