(わぁ……)



いつしか、タクシーは高級住宅地を走っていた。
見上げるような豪邸がずらりと並んでいる。



(ま、まさか、この人の実家も豪邸??)



そう思うと、緊張感は嫌でも高まる。
そもそも、どうして私がイケメンさんの実家に着いて行くのか、いまだその理由がわかっていない。
いや、違う…実家に行くのは両親に紹介するためだって言っていた。
そう…なぜ、私がイケメンさんの両親に紹介されるのか、その理由ががわかってないだけ。
さっきと同じことをもやもや考えていると、ようやくタクシーが停まった。



「着いたぞ。降りろ。」

「は、はいっ!」



(わっ!)



降りたのは、一際立派なお屋敷の前だった。
門構えだけ見ても、お寺かなにかかと間違える程だ。
そこには『橘』という木彫りの表札がかかってた。
えっと、確か『たちばな』って読むんだよね?
さらに、お屋敷を取り囲む塀が遥か先までずーっと続いてる。



(ま、まさか…ここじゃないよ…ね?)



完全に圧倒され、ぼーっと立ち尽くしていたら…イケメンさんは門をくぐり、平然と中に入って行く…
そして、私の方を振り返った。



「何をしている。
さぁ、行くぞ。
あ、それから、余計なことは話さないように。
訊かれたことに、直接的な答えのみを返す…それだけだ。
わかったな?」

「は、はい!」

な、何?
これから一体何が起きるの?
緊張感はさらに高まり、私は人形みたいにぎくしゃくしながら、彼の後をついていった。