「…そうだったのか。すまなかったな。」

「……え?」



てっきり叱られると思ってたのに、済まなかったっていうのは一体、どういうこと?



「あ、あの…私…那月さんの大切なお金を盗まれてしまったんですよ。」

「おまえが海外は初めてで、英語も話せないことを聞いていながら、一人で外に行かせてしまった。
俺のせいだ。」

「ち、違います!
悪いのは私です!
私が馬鹿だから…」

「……無事で良かった。」



どうして…?
私、お金を盗られたのに、なぜ那月さんはそれを咎めないの?
私にはわけがわからなかった。



「あ、あの…警察に届けた方が良いんじゃないでしょうか?」

「無駄だ。
みつかるはずがない。」

「わ、私、犯人のこと、覚えています。
パーマのかかった金髪で、赤いジャンパーにジーンズ…まだ若い男でした。」

私がそう言うと、那月さんは苦笑した。



「そういう男が、ここにどのくらいいると思う?
捜し出すのは、不可能だ。もう諦めよう。」

「で、でも…大丈夫なんですか?
ホテルの宿泊費とかは…」

「あぁ、カードも持ってるし、あれは土産物を買おうと思って別に入れといたものだから心配はない。」



お土産用?
じゃあ、そんなにたくさんは入ってなかったってこと?
けっこうお札も入ってたように思ったけど、そうでもなかったのかな?
そっか…そうだったのか…
私は少しだけ心が軽くなった。