「あい、うぉんと、じすべあ!」

私はそう言って、那月さんから預かった財布を出して指さした。
酷い英語だけど、多分通じてると思う。
女性は、奥のレジを指さした。
やったね!
やっぱり通じてた!



でも、いくらなのかも、どのお札を支払えば良いのかもわからないから、私は財布を広げて女性の前に差し出した。
女性は私の意図をわかってくれたらしく、お札を何枚かそこから抜いて、硬貨を返してくれた。
ぬいぐるみは、白い袋にいれて、赤いリボンを付けてくれた。



あぁ、なんだかすっごく嬉しい…!
ここんとこずっと貧しくて、生活に必要なものしか買えなかったから、このぬいぐるみみたいにただ可愛いとか気に入っただけで何かを買うなんてことなんて、到底出来なかった。
なんか、幸せだよねぇ…
好きなだけのものが買えるって…



(これも、那月さんのおかげだよね…)



那月さんとの出会いがなかったら、こんなこと出来なかった。
いや、今、こんな所にいられるはずがなかったんだから。



(あ…)



ポケットでちゃりちゃりと硬貨の音がする。
落としたらいけないし、お財布に入れとこう。
そう思って、お財布を出した時…



「いたっ!」



若い男が私に体当たりして来た。



「あっ!!」



私は無様に転がり、男は走り去った。
私の手から、お財布を奪って…



「ま、待って!」



それは、那月さんから預かった大切なお金…!
私は人混みの中、男を追って走り出した。