あんまり遠くに行って、迷子になったら困るから、さっきの画廊からなるべく離れないように…
あたりの様子も極力記憶しながら、ゆっくり歩く。



(あ、可愛い…!)



雑貨屋さんらしきお店のディスプレイに、とても可愛いテディベアを発見して、私は思わず立ち止まる。
特にぬいぐるみが好きってわけじゃない。
ただ、うちは狭い和風の昭和な家だったから、可愛いぬいぐるみやお人形を飾っても似合わないと思って、その手のものはなにも置いてなかった。
でも、今の家ならこんな可愛いくまちゃんだって、自然に似合うね。



そんなことを考えてたら、お店の扉が開いて…
顔をのぞかせた優しそうな中年の女性が、私に何か言ってる。
表情や、声の調子からして怒ってる感じじゃない。
動作からすると、多分、中に入れって言ってるんだ。



(どうしよう…?)



迷いながらへらへらしてたら、女性がさらに私に何か言う。
無下に断るのもなんだし…とりあえず、入ってみるか…



「は、はろー。」



無理やりに笑顔を作り、私はそう言って片手を上げた。